やっぱり割を食ってるのは2000年卒の社会人たちだった
日経スタイルの連載用に、いろいろと統計データをいじっていて、若者の昇給に興味を持った。
というのも、実際に最近設計している人事制度で、20代の若者の昇給額が少なすぎるんじゃないか、という議論もあったからだ。
日経スタイルの更新記事はこちら。
で、10年次ごとに「初任給に対する昇給率」のグラフを作って掲載したわけだけれど、このグラフは別の見方もできる。
※いろんな統計データ(主に厚生労働省)をもとにセレクションアンドバリエーション作成
1980年入社の方々は圧倒的だ。
2017年現在59才のこの方々の平均初任給は114,500円だった。そして30才になる頃には、「平均的に」203,000円の給与になっていた。59才の現在では、約397,000円。
1980年入社の方々は現在、新入社員のときの約3.5倍の給与を受け取って生活していることになる。
彼らが30才になったのは1988年。ソ連ではゴルバチョフによるペレストロイカが始まり、アメリカではレーガノミクスが進んでいた。そして日本では、バブル景気まっただなかだった。
1990年入社の方々もなかなかだ。2017年現在は49才。
初任給は169,900円が平均で、30才時点では248,500円になっていた。比率は1.46倍。
49才現在の平均給与は約336,000円。新入社員時点のおよそ2倍を受け取っている。
彼らが30才になったのは1998年。長野で冬季オリンピックが開かれ、日本初の火星探査機「のぞみ」がうちあげられた。
タイタニックのポーズが世間をにぎわせ、ポケモンではミュウツーが逆襲していた。
しかし日本経済は、ここから停滞を始めている。
2000年入社の方々は現在39才。1978年に生まれた世代がこれにあたる。
初任給は196,900円。しかし30才の給与は平均で233,000円と、1990年入社世代よりも少額になってしまっている。比率はわずか1.18倍まで落ちた。
彼らが30才になったのは2008年。つい最近に思えるが、もう9年も前だ。
アメリカでは初の黒人大統領が生まれたが、日本ではなにがあったっけ?
そういえばwikipediaによれば、「日本の海洋研究開発機構とロシア科学アカデミーの研究により、シベリア東部の永久凍土地帯の地温が約3度上昇し、2004年以来夏季に永久凍土表層の融解が急速に進行していることが判明」とある。
今進んでいるシベリアの巨大な穴も、このあたりがきっかけなのかもしれない。
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/17/030600080/?SS=imgview&FD=-787263934
そして彼らが39才で受け取っている給与の平均は273,000円。
2000年入社の人たちは、働き始めて17年間で、給与は1.4倍になっただけだ。
2010年入社の方々は現時点でまだ30才にはなっていない。ちなみに初任給平均データは200,300円とあがっている。2017年時点の28才給与は232,000円と、2000年入社の方々のときとそれほど変わらないようだ。
そうしてみれば、やはり一番割を食ってきたのは2000年入社の世代だということがわかる。
その理由にはいろいろあるけれど、僕が考える最大の原因は、若手の給与を増やさなくても、次の若手を雇えばそれですんでしまう、という点だ。だから20代の給与を増やさない。
このことは、有名大企業の中からはほとんど見えない。
しかし、大多数を占める中堅・中小企業を見ていると、とにかく20代の給与を増やさない会社が多いことがわかる。せいぜい平均して毎年5000円昇給させればよい方だ。
なぜそうなるのかといえば、本質的には、経営者が甘えているから。
経営が大変だから給与を増やせません、ということは甘えでしかない。
ここ数年、若手の売り手市場ということが言われている。
だからこそ、これを機会に中堅・中小企業各社は本当に、企業を成長させ、従業員の給与を増やすことを考えなければいけない。そのためには、まず若手の給与をしっかり昇給させなければいけない。せめて将来に夢が持てるくらいには。
それができない企業は、残念だけれど淘汰されてしまうだろう。
具体的には、ちょうど今の社長が退任せざるを得ないくらいのタイミングで。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)
昇給が確実じゃないなら初任給を30万円にするしかない
今日も今日とて多くの方々の前で「給与を決めるために評価をしていたら誰も成長しない」とか「そもそも日本の評価制度って1990年台以降に生まれた仕組みでしかない」とか話していた。
そんで、評価報酬制度設計の本業に戻ってみれば、そこではやはり報酬の話を考えるわけで、いろいろと複雑な去来があったりする。
評価で報酬が決まらないのなら、何で決まるのか。
それはとりもなおさず、市場の取引価格として決まるのだ。
私はその取引価格が低すぎることが、すべての発端だと考えている。
たとえばこんなデータがある。
このグラフ自体は、厚生労働省の賃金構造基本統計調査平成27年版をもとに、私がいろいろといじくって出したものだ。多分、誰かが真似しようとしても出てこないデータだ。
要は何がいいたいのかといえば、あいも変わらず日本では、給与は右肩上がりで、それがとてもとても問題だということ。
このグラフは東京都で働く人たちの平均的な月収を示したものだけれど、平社員としての非役職者ですら、20代で20万ちょっとの給与が50代後半で50万円近くになっている。
もちろんこれは大企業を中心としたデータであり、中途採用で平社員で50才で40万円以上の給与がもらえるわけじゃない。
大事なことは、スタート地点にある。
新卒で働き始めた時の月給が20万円代だということ。
これが最大の問題だ。
言い換えよう。
どんな企業でも、就職活動のためのブランディングに力を入れれば、ピカピカの優秀な新卒社員を獲得できる可能性がある。それも月収にしてわずか20万円代で。
こんな状況で、だれがややこしい中途採用を選ぶだろうか?
そして、この金額で誰が結婚して子どもを産んで生活できるだろうか?
生活に必要な金額を低めに申告することが美徳のようになっているけれど、ぶっちゃけて言えば東京圏で、世帯年収1200万円ないと子ども二人を私立に行かせられない。
私立じゃないとしても、世帯年収800万円がなければ子育てはとても大変だ。賞与がなかったとしたら月給66万円くらい。年間賞与が3カ月だとしたら53万円くらいの月収だ。
要はそれくらいの給与がないと、家庭生活ができないのだ。
しかし新卒はそれだけの給与をもらえる手段がない(一部の、新卒でも高給を支払う会社を除く)。
さらに20代の平均昇給額は、2000年までは2万円/年くらいはあったのだけれど、直近では6000円くらい。10年で6万円アップ。昇格しなけりゃ30才で30万円の月給にもならない。年収で360万円+賞与で、500万円に届くか届かないか。
そりゃ結婚できないはずだ。
昨今、政府が昇給のために政治圧力をかけているけれど、それは正しいようでただしくない。だって、嫌ならピカピカの新卒を20万円とか25万円とかで雇えばいいのだから。
だから、たとえば戦前の日本がそうであったように、初任給でもちゃんと一家が生活できるだけの水準を支払うタイミングに来ているのではないだろうか。
実家から通う新卒社員へ支払う最低賃金プラスアルファ程度の給与水準と比較しながら中途採用活動を行う企業は、そろそろ己の身を正すべき時期に来ている、と私は考えている。
新卒をただちに家計を担える水準の給与で雇わなくとも、せめて3年以内に昇給させる仕組みが必要だ。20万円で雇っても、3年でせめて30万円にまで昇給する仕組み。30才までにはちゃんと結果を出せる人なら年収600万円にたどり着ける仕組み。そういう仕組みが必要だ。
新卒なんて使えないからそんなの無理だ?
いや、半年で使い物にする手段ならいくらでもある。そのために教育がある。
教育とは経験値で語る高齢者のうんちく垂れ流しではなく、心理学に基づいた、学習と実践との繰り返しだからだ。
とにもかくにも、新卒を安く買いたたくのはそろそろやめにしなきゃまずい。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)