あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

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評価は本質的に人の入れ替えを促す

書評ネタがつづいたので、まじめな人事のお話を。

1990年代から成果主義人事制度が流行しました。
その頃、成果主義人事志度についてこんな否定的意見が多かったようです。

● 短期的な数字だけを追いかけるようになる
● チームワークが阻害される
● 管理強化につながる
● 創意工夫などの意欲を阻害する

その後、実体としての運用面でのデメリットも喧伝されるようになりました。

● 評価の基準が明確でない
● 評価者による差を解消しづらい
● 報酬面での差が小さすぎる(あるいは大きすぎる)
● 精神的な疾患を助長する(うつ病など)

これらを踏まえて、成果などの具体的な基準に基づく評価を繰り返して実施した場合の、ゲーム理論モデルを設定してみました。
ややこしいことを抜きにして、シミュレーション結果の一部を書きます。

◎ 何らかの基準に基づき評価を繰り返した場合、一定割合で「低い評価を得続ける一群」が発生する
◎ 「低い評価を得続ける一群」は仕事だけでなく生活面を含めてモチベーションを低下させる

成果主義とかそんなの関係なく、評価を繰り返すと、こんな結果になる、ということです。
このシミュレーション結果はあくまでもモデルケースのものであり、かつ根拠の薄い定数を用いているので、学術的にはっきり言えるものではありません。
でも、まあ、なんとなくしっくりきますよね。

このシミュレーション結果は、別の一群の存在もあらわします。
それは「高い評価を得続ける一群」です。いわゆるハイパフォーマーです。
彼らは高い評価にあわせて、高い報酬を得ることになります。
もし彼らに高い報酬を与えなければ、それは彼らのデモチベート要因となるとともに、労働力市場への流出要因ともなります。簡単にいえば、「こんな会社やってらんねぇ」と転職してしまうということです。

ちなみに中間層は二種類に区分されます。
第一は、中間評価を繰り返す人たちです。いわゆる普通の人たちです。
第二に、高い評価と低い評価を行ったり来たりするような人たちです。
第一と第二の中間層を比べると、第二の方が「評価のボラティリティが高い」人たち、ということになります。
これらの人たちに対して、モチベーションを維持しつづけてもらうために、ちょっとした昇給の仕組み(定期昇給など)が効果的です。
ただ、第一群と第二群の間には、小さいけれども深い溝があるので、同じ仕組みだとあまり機能しません。
第一群はコツコツタイプ、第二群は一発屋、と定義できるでしょうか。

さて、これらのシミュレーション結果は、労働力市場が整備されていることを前提としていますが、実は根本的なマネジメントへの影響を導き出します。

それは、「低い評価を得続ける一群」を社内に留めつづけると、組織の業績もチームワークも、そしてその人本人の生活も、悪化させるということです。
だからこのモデルケースによるシミュレーション結果は「低い評価を得続ける一群」には適切なタイミングで組織を退出してもらう必要がある、と言う結論を導くのです。

繰り返しますが、これはあくまでもモデルケースをシミュレーションした結果です。
しかし考えてみればこれは、GEの9Blocksの考え方と一致します。

このシミュレーションは結構前にしたもので、その後とある経営者の方にこの結論をお話したことがあります。
その方はうなずきながら、私にもう一つの気づきをくれました。
「平康さん、その結論はきっとこんな反論を受けるよね。『どんな組織にも成果を出せない10%が存在する。でも、その10%は組織にとって必要だ。例え10%の成績不良者を解雇したところで、また10%の成績不良者が出てくる』と」
「そのロジックを好きな方は多いですね」
「うん。でも僕はこう思うな。10%を退出させたあとの組織に新たに生まれる10%の成績不良者は、前に出て行った10%よりもきっと高いレベルの人たちだよ。そして、残る90%のレベルがどんどん上がっていくんだ。それがきっと、企業の成長なんだと、僕は思うよ」

まさに、という答えでした。
新陳代謝により企業をさらに発展させるために、やはり人材をタイムリーに退出させる仕組みは必要なんだと確信しました。


さてしかし
一方で、先日こんな記事も書きました。


ダイバーシティの本質はライフステージキャリアを認めることにある - あしたの人事の話をしよう



成果を出せない要因が、生活面にあってそれが再現性のないものである場合には、それは企業から退出してもらう理由になってはいけない時代になっています。
具体的には、出産・育児のために休職せざるを得ない女性、老親の介護のために週に3日しか勤務できない人。そう言う人は、時期が終われば再度活躍していただけます。

ふんだんに労働力がある時代ではないのです。減少傾向の労働力人口のもとでは、個人に与えられた一時的な『制約』(@今野 浩一郎)をもってして組織を退出させては、結果として組織側にとって不利益が生じます。

その上で、組織の新陳代謝を活性化させないといけない。
人材のタレント・マネジメントはすでに常識になりつつありますが、人材のイグジット・マネジメントもこれからの大きなニーズになっていくと感じます。
イグジットって言うときつい感じもするので、グラッド・マネジメント、くらいの言い方の方がいいかもしれませんが。

ちなみに、「低い評価を得続ける一群」も業務と能力のミスマッチによって発生している場合がある、という考え方があります。
理屈としてはそうなんですが、なぜその会社が業務と個人の能力のミスマッチをわざわざ解消してあげないといけないのか、が説明しづらい。
労働力市場があるのだから、他所で仕事さがしなよ、というほうがしっくりきます。
余力のある企業なら適材適所の仕組み構築を優先するのもいいのですが、現場感覚ではとても難しい。
また、専門性の高い企業だと、ミスマッチの解消がそもそもできません。
典型的な例は、教師です。10年間教師をしてきた人に対して、教師に向かない、と言う判断が下された場合、どんな適材適所を考えることができるでしょう。
このあたりは少し長くなりそうなので、また後日。

 

 

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平康慶浩(ひらやすよしひろ)