あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

まじめな話と、雑感(よしなしごと)とがまじっているので、 カテゴリー別に読んでいただいた方が良いかもしれません。 検索エンジンから来られた方で、目当ての記事が見当たらない場合 左下の検索窓をご活用ください。

【人件費の近未来2-3】 職務給の課題は運用面にある

(当記事は、月刊人事マネジメント2014年3月号から1年にわたって連載した記事を、2015年の現状にあわせて加筆修正したものです。)

前回記事はこちら。 

 

【人件費の近未来2-2】 職務給導入のニーズは2つに絞れる

 

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では職務給は妥当に機能しているのか。

第二の経営リスク低減というニーズについては、十分に機能している例が多い。

しかし第一の採用力向上については、疑問が生じる。

採用できたとしても、定着率に課題を持つ企業も多い。

職務等級(ジョブグレード)と職務給は導入しても、その後の給与改定の仕組みが追い付いていないからだ。

 

その理由として、労働市場の価格形成メカニズムがある。

労働力は目に見えないので、採用時点では低めの取引価格(採用時の月給や年俸)が設定されやすい。

しかし採用後に期間が経過し、あるべき報酬水準にまで昇給させる仕組みまで設計した企業は多くはない。

採用してしまえば、あとは社内のルールにのっとってほしい、と考えてしまう企業や経営者が多いのだ

 

具体的な例を示そう。

ある会社で、グローバル人材と言われる職群を設定し、彼らにだけ職務給を適用した。新しく採用した人もいれば、社内で手を挙げて移籍した人たちもいた。

しかし、職務給を適用された従業員の大半は、3年以内に他社に転職してしまった。

理由は、昇給しなかったことと、賞与が満額支払われなかったことだ。

職務給制度としては、それぞれの人材に与えた目標を達成すれば、多めの昇給と、賞与の加算支給(最低でも満額支給)をするとしていた。

そして彼らのうち何人かはちゃんと目標を達成した。部門としても業績を達成できた。

しかし別部門が赤字を出したり、今一つ伸び悩んでいた。

そこで経営層は「公平性」の観点から、一律で賞与を減らしてしまったのだ。

辞めていった人たちは口々にこう言っていた。

「契約違反だ。1年なら我慢もするが、2年続くのなら、契約を守らないことがこの会社の社風だ。こんな会社にはもういられない」

残念なことに、この会社の「グローバル人材」と呼ばれていなかった人たちの一部は、「グローバル人材」が退職していったことを喜んだ。そして、「会社全体が一丸とならなければいけないときに、私利私欲をふりかざす連中は会社にはいらない」と広言した。

仕組みを変えても、運用=心が変わらなければ何も変わらないのだ。

 

 

また、業績配分の仕組みも不十分なために退職されてしまうこともある

夏冬の生活給的な賞与慣行に慣れ親しんだ企業では、業績に基づく利益配分の運用を十分に理解していないことが多い。

例えば期末に利益配分を損金として実施しようとするなら、期初の計画段階から業績賞与を予算化しておかなければいけない。

しかし外資系以外で業績賞与の予算化がしっかりできている企業は多くはない。

これもやはり、賞与を契約に基づき払うものだ、というふうに意識転換できないから起きる問題だ。

 

 

では職務給を今から導入しようとするのなら、どんな点に気を付ければよいのだろう。

 

 

(次回へ)

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)

 

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【人件費の近未来2-2】 職務給導入のニーズは2つに絞れる

(当記事は、月刊人事マネジメント2014年3月号から1年にわたって連載した記事を、2015年の現状にあわせて加筆修正したものです。)

前回記事はこちら。 

【人件費の近未来2-1】 職務給要素をどう取り入れるべきか

 

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■職務給導入 第一のニーズは採用力

職務給を導入した理由を企業に確認してみると、主なニーズは二つだ。

第一のニーズは、「優秀な外国人を採用するため」というものだ。

似たような答えとして、グローバルに活躍できるような優秀な人材を採用するため、というものもある。

そのような人材は、報酬水準の相場が違っていることが多い。

そこでグローバル人事コンサルティングファームが持っているジョブグレードを参考にしながら、職務分析を踏まえて自社の各ポジションを点数化し、市場相場にあわせた報酬水準として整理するという取り組みが進んだ。

そもそも優秀な人材を採用するには、労働市場とのマッチングが重要だ。

かつて多くの日本企業では自社内でのみ通用する特殊技能=タバコ部屋での情報交換や、昔ながらの仕事の進め方、取引先とのツーカーな関係などに熟達している人材を「社内外の調整に秀でた優秀な人材」として高く処遇してきた。

経済学的には、企業内特殊的技能・能力・人的資本などと言ってきた。

 

しかしそれらが通用しないビジネスや、新たに獲得しなくてはならないスキルが増えている。

特に、社内にない新しいビジネススキルや技術スキルが必要な場合や、外国語コミュニケーションの増加などだ。企業によってはこれらの両方が同一人物に同時に求められることも増えている。

そこで国籍や出自を問わず、労働市場の相場で人を雇用しなくてはならなくなってきた。

以前ならそれらの人物は、一人一人にあわせた特別ルールで採用し、処遇すればよかった。

しかし「特別ルール」が破たんしつつある。なぜなら、労働市場にあわせた報酬制度の方が、諸外国=グローバルでのあたりまえだからだ。

だから日本国内でしか働かないいわゆる「正社員」に対しても、制度を変えるニーズが出てきたのだ。

仮に日本の大学を出て、日本国内で営業や事務だけする人物に対しても、グローバルな労働市場にあわせた物差しを用意して、人材を採用しなければいけなくなっている。

そうして職務給の仕組みが採用されてきた、ということだ。

 

■第二のニーズは経営リスク低減

第二のニーズは、人件費の自然増を抑えるためだ。

ただこれには誤解があって、人件費の自然増は給与改定方法と、昇格(降格)基準の問題だ

だから職務給を導入したとしても、給与改定方法や昇格基準を年功的にしていたのではまったく効果がない。

とはいえ給与改定方法と昇格(降格)基準という、一部の制度だけを修正するのでは管理職や従業員に意図が伝わりづらい。

そこで「職務給=増えない給与」というような誤解をあえて生みだして、制度を構築した事例などもみられる

 

中長期での経営リスクを低めようとするための取り組みが重要であることには間違いない。

特に説明責任が求められる企業で、職務給、あるいは職務給と能力給の中間に位置するような役割(貢献期待と言い換えたりする)給が導入されている。

 

これらのニーズから導入が増えている職務給だが、もちろん万能というわけではない。さまざまなデメリットがそこにはある。

 

(次回へ)

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)

 

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