あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

まじめな話と、雑感(よしなしごと)とがまじっているので、 カテゴリー別に読んでいただいた方が良いかもしれません。 検索エンジンから来られた方で、目当ての記事が見当たらない場合 左下の検索窓をご活用ください。

順調に給与を増やしたい人はどんな会社を選べばよいのか

今年も某大学の就職セミナーで話すので、そのための考え方を整理してみる。

 

今回のお題は『順調に給与が増える会社の選び方』

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それはどんな会社なのか?

その前にまず、給与が増えにくい会社を整理してみよう。

ちなみに僕が説明するのは、ブラック企業、という視点とは全然違う。

あくまでも、人事制度と言う会社の仕組みを踏まえた分類だ。

 

給与が増えにくい会社その一

『入社に資格が必要な会社』

 

意外に思うかもしれないが、資格職は給与が増えにくい。

もちろん、資格の種類によって給与額が多いとか少ないとかいうことはある。

新人で入ってもずっとそのままの給与、ということでもない。

けれども、給与が増えなくなる、『給与の天井』がわりとすぐにやってくる。

 

それは、入れ替えが簡単だからだ。

 

資格職ということは、言い換えれば毎年資格取得者が現れる業界だ。

だから入れ替えるための新しい人が毎年あらわれる。

新人よりも経験者を優遇する業界も多いけれど、最近のビジネス変化は激しいから、入社して5年くらいたった人と新人とだと、新人の方が最新の状況を知っていたりする。だからむしろ新人の方が優遇されることだってある。

社内で経験を積んだ人が優遇される場合には、資格を持っているからじゃなくて、その人が『優秀だから』給与が上がっていく。

その場合の優秀さとは、管理職になれるとか、お金をかせげるとか、そんな定義だったりする。

 

ただ、資格職でも元の給与水準が高い場合には、それは安定的な給与にはなる。

最近はその給与水準も変動したりするのだけれど。

 

 

給与が増えにくい会社その二

『職種で募集している会社』

 

 

職種で新人を募集している会社は選ぶことに慎重になったほうがいい。

そういう会社では従業員に『職務の習得』を求める。

SEでもアナリストでもテレアポでも営業でもキッチンスタッフでも経理事務でもなんでもそうだ。

まず、仕事を覚えてもらう。

そしてその仕事を効率的に遂行してもらう。

だから、仕事を効率的にするまでの期間は、給与は増える。

 

例えばSEが当初月給22万円で採用されたとして、8年ほどで仕様書を書けるようになりプロマネ見習いができるようになる頃には30万円以上には昇給していることだろう。

しかし、そこから、増えなくなる。

その増えなくなる金額は、転職用の求人記事に乗っている年収なり月給だ。

それがだいたいの給与の天井になる。

つまり、職種で採用する会社もやはり、人の入れ替えができるから、給与を増やす必要がなくなるのだ。

 

 

給与が増えない会社その三

『業績が悪い会社』

 

これは当たり前だ。

どうしようもないので、せめて業績くらいはチェックしましょうとしか言えない。

また、構造不況の業界にある会社も気を付けた方がいい。

今は業界内での勝ち組でも、3年後はどうなるかわからない。

 

ただ、景気の波があると信じている人や、「私が業界を変えてみせる!」という意気込みのある人は、不況にある業界にあえて飛び込み、これからの好況を作り出していくことも良いだろう。

 

さて本題だ。

じゃあどんな会社であれば給与が増えるのか。

 

『順調に給与が増える会社』

それは上記の反対の会社だ。

 

入社に資格が不要で、職種を限定していない会社。

業績が悪い会社はとりあえず除外するとして、業界動向を細かくチェックすることは難しいからこれも除外する。

入社に資格が不要で、職種を限定していない、という二つの条件を満たしていると、順調に給与が増えやすい。

 

皮肉な話だけれど、こういう会社では『キャリアパスがあいまい』だったりする。

だから、採用した正社員にはいろいろな経験をさせながら育てる。

そして、それらの経験の中で適性を見極めたり、培ったスキルを見て、最適配置を実現する。

その判断がつくまでは、給与を増やしていく。

 

でも、そのスピードはかなりのんびりであることも多い。

それに、やはり業界の平均給与と言う天井はある。

金融系は高いし、サービス系は低い。製造業はルーチンと非ルーチンとでずいぶんと差がついている。

 

一つの会社で務めきるつもりでも、40歳くらいで給与の天井にたどりついて、そこからなかなか増えなくなる。

 

じゃあ、業界と年齢による給与の天井が来ることを見越して、もっと良い会社を選べないだろうか?

 

比較的簡単に良い会社を選べる基準が二つある。

これらはホームページを見るだけでもわかる。

 

一つ目は、従業員教育にお金をかけている会社だ。

それも、OJT(オンザジョブトレーングの略で、要は現場研修)じゃなくて、Off-JTをちゃんとしている会社がいい。

会社のHPを見て、階層型研修、とか、集合研修、とかのキーワードがある会社だ。

何年目研修、とか、マネジャー研修とかでもいい。

 

Off-JTにはお金がかかる。

講師代だけじゃなくて、働かない時間でも給与は支払われるからだ。

それをわざわざ定期的に行っている会社であれば、ちゃんと従業員を育てようと考えている。

 

二つ目は、役員の多い会社だ。

それも、取締役よりも執行役員が多い方が良い。

役員が多いということは、それだけ高い給与を受け取っている従業員が多い、ということだ。

取締役は従業員ではないので、執行役員であればなおよい、というのは、それだけ働いている人に昇進のチャンスがあるということだ。

(オーナー企業だと取締役は親族で固められている場合もあるから、取締役じゃなくて執行役員が重要なのだ)

 

採用した人を教育し、出世するチャンスを与えてくれる会社を探すだけで、ずいぶんと会社選びは楽になる。

たくさんの会社についての財務分析ができなくても、この二つだけなら、すぐにでも確認できるんじゃないだろうか。

 

 

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※社会人向けには不十分な内容だけれども、学生向けということでご容赦を。

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)

 

 

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なぜ履歴書まで送ってきておいて面接に来ない人がいるのか?

 

「アルバイトの採用状況、どうですか?目標人数達成できそうですか?」

 

定例ミーティングでの僕の問いかけに、管理部門のYマネジャーは苦笑いした。

 

「厳しそう?」

「いえ、応募はあるんですが……」

「なにかまずいことでも?」

「ちょっとご相談しなきゃいけないかも、ですね」

 

その日僕が訪問していたのは、大阪市内にある顧問先だ。

どんな会社なのか具体的には書けないが、かれこれ3年ほどのお付き合いになる。

その間に人事制度も入れ替え、教育研修の仕組みもつくり、マネジャーの仕事内容もはっきりさせた。

規模は小さいけれども、今やどこに出ても恥ずかしくない、ホワイト企業だ。

この会社で、アルバイトを20名採用することになった。

3つの求人誌に広告をだし、ハローワークにも登録した。

僕の方では、時給を決め、採用基準を定め、昇給の仕組みをつくった。

さらに、採用面接のときにどんなことを聞けばよいのか、という面接マニュアルも作った。

そうして、採用の準備はほぼ整ったと考えていた。

 

「求人誌に掲載したのは先週初めでしたよね」

「はい。どんどん応募はあるんですよ。それで今週から面接を始めているんですけれど……」

「どんな問題が?」

「いや、実は面接に来ない人が多いんです……」

「こない?」

「ええ。いわゆるドタキャン、どころか、連絡もなしに来ないんです」

「道がわからないとか、あるいは急なことでもあったとか」

「そうかもしれません。でも、歴書に書いてある携帯に電話しても、出ないんですよ」

「割合はどれくらい?」

「だいたい50%です……」

 

面接進捗状況を確認するための応募者一覧シートを机に置いたまま、僕とYマネジャーは腕を組んで考え込んでしまった。

 

実際問題、これが居酒屋のバイトとかであれば、こういうことはよく起きる。

でもホワイトカラーの仕事ではあまり聞いたことがない。

 

「年齢は若かったりするんですか?」

僕の問いかけに、Yマネジャーは首を振った。

「ばらばらです。たしかに20代は多いんですけれど、40代の主婦とか、50代の男性とかもぶっちですよ」

 

ここまで聞いて、様々な可能性を考えた。

求人誌側には申し訳ないのだけれど、たとえば応募数をかせぐためのサクラの可能性もあるかも、とすら思った。

でもそんなことを想像していても仕方ない。

あれこれ思案したあげく、2つの対策を打ち出した。

 

第一の対策は、面接時の確認書類から「〇〇〇〇〇」を除外する、というもの。

第二の対策は、面接前に「××××」をする、というもの。

 

「とりあえず、この2つの対策を徹底してみてください。それで1週間様子を見て、ダメなようだったらもう一度考えましょう」

「わかりました」

うなずいたYマネジャーは不安そうだったけれど、採用数を確保できなければ、ビジネスに支障が出る。

どんな対策でも、やらないよりやる方が良いのだ。

 

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それから1週間後、僕たちはまたミーティングをした。

「平康さん、劇的に変わりましたよ!」

「おお、効果が出たんですね」

「はい。この調子で行けば、無事目標採用数を達成できそうです」

「それは良かった。じゃあこの調子で頑張りましょう」

 

うってかわって上機嫌なYマネジャーを前に、僕も気分がよかった。

これでオーナー社長も満足してくれるだろう、と安心もした。

 

僕がうちだした対策はとても単純なものだ。

 

第一の対策では「職務経歴書」を不要にした。

履歴書は先に郵送なりメールなりで送ってもらうけれど、職務経歴書は当日持参してもらうことになっていた。

しかし、実際の採用基準としては職務経歴は関係ない。

その人のスキルや行動特性を面接で読み取り、それで問題がなければ、あとは社内研修で教育をするからだ。

一方、職務経歴書を書く側の立場にたってみれば、ずいぶんと気がめいることが想像できた。

誇れる職務経歴であればいいのだけれど、ぶつ切りの職務経歴だったら書きたくないと思うこともあるだろう。それに職務経歴書を書くのは面倒くさい。

もしかして、職務経歴書を書ききれずに面接に来れないひとがいるのでは、と考えたのだ。

この対策の結果、採用判断をするYマネジャー側にとっても、業務が楽になった。保管、管理する書類が減ることは、手間を減らすことにつながるからだ。

 

そして、もう一つの対策

それは、面接の前日に「確認電話」をかけるというものだった。

「明日、15時から〇〇様とご面談させていただく予定ですが、ご予定にお変わりはありませんでしょうか?」

こんな電話を、面接予定者全員にかけてもらうようにした。

 

「まさかそんなことで改善するでしょうか?」

Yマネジャーは不安を口にした。

「まあやってみましょうよ。手間だけれど、それで改善するかもしれないし」

そう答えた僕だったけれど、もし面接ぶっちの理由が(面倒くさくなった)というものだったとすれば、これで改善するだろう、と予測していた。

 

そして実際に、大幅に改善してしまったのだ。

 

実はこの方法は、営業手法としての「YES取り」の応用だ。

一連の会話の中で、何度も「YES」と答える質問を繰り返すことで、こちらに対する好意を生み出すための方法だ。

 

また、心理学としての「ピグマリオン効果」や「マングローブ効果」も念頭においていた。

簡単にいえば、「あなたに会いたい」と言う期待感を前日の確認電話で改めて示し、そのことに対して「YES」「明日は〇〇時に面接に行きます」と口に出してもらうことで自分自身の行動を定めてもらう。

そんな効果を実現しようとした対策だった。

 

結果として、当日の無断ぶっちが激減した。

ということは、面倒くさいから面接に行かない人は結構いる、ということなんだろうか。

対策の効果は出たけれど、「面倒くささが原因だった」とまでは断定できないような気がしていて、でもまあそれでいいのか、とも考えてしまう。

 

結局のところ、どうなんだろう。

 

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)

 

 

 

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