あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

まじめな話と、雑感(よしなしごと)とがまじっているので、 カテゴリー別に読んでいただいた方が良いかもしれません。 検索エンジンから来られた方で、目当ての記事が見当たらない場合 左下の検索窓をご活用ください。

従業員の成長と昇給とを連動させる仕組み

新規事業はなぜ必要なのか?そして、なぜ失敗するのか?

つい先日のことですが、長年顧問をさせていただいている会社から、新規事業向けの人事制度構築を依頼されました。

2020年の半ばから試行しはじめていているそのビジネスは、担当する従業員5名未満で、まだ単月黒字にもなっていません。

けれども、業界的には極めて大きな伸びが期待されるので、今からぜひ参入しておきたい。そのために、社内でのサービス提供体制を拡充するのに、収益構造を踏まえた人事の仕組みを設計してほしいというご依頼でした。

 

従業員数名のビジネスに人事制度が必要なのか?

 

そんな疑問を持たれる方もいらっしゃるでしょう。

けれども、人事制度を整備しておいた方が良いビジネスは多いのです。それは人の成長が事業の成長に直結する場合です。

今回依頼されたビジネスでは、基本的に従業員1名でサービスを提供できます。

そこで必要な要素は2つです。

①独り立ちしている場合での理想収益モデル
②独り立ちに至るまでの条件

 

①をつくるためには、業界分析を踏まえ、売上と原価、販管費の確認が必要です。

仮に売り切り型の商品(たとえばぶら下がり健康器)の訪問販売ビジネスだとしてみましょう。

原価5000円の健康器を2万円で売るとします。1日に訪問できる件数が100件で、そのうち2%で購入いただけるとしたら、1日の売上は4万円です。

原価は1万円で粗利が3万円。販管費に月給と交通費などの諸経費があるとして1カ月30万円とします。

 

稼働22日×売上4万円=88万円

 

そこから原価25%を差し引くと66万円の粗利です。

そこから販管費30万円をマイナスして、営業利益は36万円。

売上に対して営業利益率40%という計算になります。

 

さてこれが①の理想収益モデルだとして、②を考えます。

②を考える際には、そのビジネスを担当する人の行動、そして気持ちを想像します。

 

必要な行動は1日に100件訪問すること。

 

必要な気持ちは、98件に罵声をあびながら退散してもめげないこと。

 

それらを実現するためにはマニュアルを整備し、当初のショックに対してフォローしながら育成することが求められます。

そこで設計するものが人事制度です。

等級基準であり、昇格・降格基準であり、評価基準となります。加えてインセンティブ基準などを設計して、自分自身とビジネスが成長すれば、さらに明日はよくなるというイメージを持ってもらうようにします。

 

人事制度設計に際しては、①の理想収益モデルからどこまで利益を持ってこれるかを考えます。

ここで持ってくる利益率が、そのまま事業の成長率になることを意識します。

たとえば40%の営業利益率を20%に落としてもよいから、その分を人材採用や教育投資、モチベーション向上に回すとすれば、その範囲で制度を構築します。

 

そうして、従業員も成長し、事業も成長する構造を築いていきます。

 

すでに何十年も続いている会社の人事制度ではなく、今から立ち上がる会社の人事制度設計は、「人と組織の成長をあたりまえにする」弊社の理念をそのままあらわすような仕組みになることが多く、とてもやりがいがあります。

 

まだ事業が黒字じゃないので、十分な設計コンサルティング費用を請求しづらいことがつらい点ではあるのですが。

 


平康慶浩(ひらやすよしひろ)

 

人と組織のあり方についての無料相談を受け付けております。

リニューアルした弊社ホームページからどうぞ。

sele-vari.co.jp

高額給与の支払い方コンサルティング

人事コンサルティングの依頼として、「高額給与の支払い方」についての相談が増えてきました。

対象となる職種は主に2種類。

エンジニア系採用と経営幹部採用です。

 

エンジニアを採用したいという理由は、大ぐくりでいえばDX(デジタルトランスフォーメーション)対応ということなんですが、細かい話でいうと、以下の職種になります。

・UI/UXデザイナー
・WEBエンジニア
・VPoE(こちらは経営幹部ともかぶりますね)

金額水準としては、UI/UXデザイナーとWEBエンジニアがだいたい同じくらいで600万円~800万円。VPoE(Vice President of Engineer)で1000万円~1500万円といったあたりです。

ガチガチのIT系企業だったらもっと安く雇えるとは思うのですが、そうではない会社がエンジニア系の職種を採用しようとすると、どうしても相場より少し高めに支払う必要がでてきます。

 

社長のイラスト(若い男性)

経営幹部採用についても事情は同じような感じで、取締役候補を執行役員として迎える場合などです。報酬水準は企業規模にもよりますが、1200万円~2000万円くらいの例を見ています。

こちらも実は、社内に今いる執行役員よりも少し高めに設定することが多いのです。

 

つまり「高額給与の支払い方」についての相談とは、「今いる社員より少し高く支払ってでもよい人材が欲しい」というニーズが高まっていることが背景にあります。

 

で、なぜその支払い方がコンサルティングのテーマになるかというと、ご相談いただく各社が、それぞれ失敗した経験を持つためです。

 

典型的な失敗の第一は「期待した成果をあげてくれない」というものです。

また「入る前に聞いていたことと状況が違う」ということもよく起きます。これが第二の失敗ですね。その際にはせっかく採用した人材が早期に離職してしまいます。

 

第一の失敗に基づき、各社の経営層や人事部は「給与の下げ方」を求めてきます。

具体的には賞与の引き下げ→月例給与の減給→等級の引き下げという順序での要求となります。

 

「経験とスキルがあるというから弊社の同じポストよりも200万円高い給与にしたのに、経験は不十分だし、スキルもあいまいだった」という場合に、なんとかして年収を引き下げたい、と相談されるわけです。

しかし採用時の労働条件通知書があいまいな書き方だったりするので、どうしてももめることになりがちです。

このような場合には、後だしじゃんけんをするよりも、まず最初に労働条件通知書を明確にするだけでなく、年収に占める賞与の割合や満額支払い条件などを具体化することが重要です。

さらに社内の評価制度について丁寧に説明し、コミットメントをしっかりしていただくことも必要となってきます。

そのため、実際のコンサルティングの内容は、ピンポイントでの人事制度の見直しと運用支援=制度説明などのサポートになることが大半です。

 

第二の失敗は入社前との条件の違い、という理由での中途採用者の早期離職ですが、本当の理由は職務権限の不足です。

特に経営幹部として転職してくる人の大半は、肩書にふさわしい権限を求めてきます。

しかし経営幹部を求める会社の多くは、幹部に権限を与えていない場合が多いのです。

そのため、コンサルティングでは、職務権限規程の見直しと、経営会議などの会議体設定の見直しが主になります。

 

中途採用の失敗は、単純に「良い人に巡り合わなかった」ということではなく、社内の仕組みが不十分なことによることが大半です。

 

ぜひ自社の人事制度が、優秀な中途採用者の活躍に足るものかどうか、確認してみてください。

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)

 

 

 

 アフターコロナの生き方を指南するこの本もぜひどうぞ。

給与クライシス (日経プレミアシリーズ)

給与クライシス (日経プレミアシリーズ)

 

 

 

 

弊社で最近、zoomを用いたセミナーをたくさん実施するようになりました。

www.sele-vari.co.jp