ピーターの法則があてはまらなくなる時代が来る
セレクションアンドバリエーションの平康慶浩です。
「ピーターの法則」をご存知でしょうか。
アメリカの社会学者であるローレンス・J・ピーター先生によって提唱された考え方です。
1969年が初版なんですが、2003年に再販されたものが日本でも販売されています。
- 作者: ローレンス・J・ピーター,レイモンド・ハル,渡辺伸也
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2003/12/12
- メディア: 単行本
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簡単に説明してしまえば、人が能力の限界まで昇進すると、すべての役職は「無能な人」によって占められてしまう、というものです。
これを経済学者のエドワード・P・ラジアー先生が、昇進競争の理屈で数式で説明されています。
日本では伊藤 秀史先生、小佐野広先生が以下の本で説明されています。
実際の人事の現場では、この理屈通りには動いていないのですが、それでもそういう場合は出てきます。
固い用語になりますが、昇進を「卒業基準」で判断している企業は、ピーターの法則が当てはまりやすくなります。
例えば、係長の中で優秀な人を課長に昇進させる、という判断を行う場合です。
そうすると、係長として有能でも、課長としてはダメな人は、ダメ課長になります。
しかし優秀な課長になれた人は、次に部長に昇進します。
そこでダメ部長になる人と、優秀な部長になる人がうまれて……定年が来るか、トップになるまで繰り返されます。
ちなみにこの理屈でいくと、新しい社長が優秀かどうかはやらせてみないとわからない、ということになります。
一方で「入学基準」で昇進判断する場合にはこのようなことは起きづらくなります。
しかし一方で、入学基準の判断はとても難しい。
入学基準の場合、例えば3人いる係長の中で、誰が課長に適しているかを事前に判断することになります。
しかしその判断は誰が行うのか。
合議の場合には、誰かが反対することで、候補者の適度を判断します。
これは日本企業に多いわけですが、集団浅慮と言う言葉もあるように、おおよそ10人以上の人々の合議で判断したことは、最悪の判断になる可能性が高くなります。
一方欧米企業では、同じ入学基準でも、誰かがスポンサーになることで昇進判断をする場合があります。
つまり有力者が一人でも推した場合に、その人を昇進させてしまうという判断です。
昇進させた責任はその有力者がとることになるので、判断は逆に慎重になりがちです。
ただこの方法は、降格が行なわれない場合にはうまく機能しません。
私はラジアー先生の昇進競争の数式を応用して修士論文を書いたので、組織における適切な昇進可能性をどのように制度に落とし込むべきか、ということに深い興味を持っています。
一方で、考えたのです。
これからは役職階層による組織がどれだけ機能するだろうか。
リンダ・グラットン先生のワークシフトの中で、2025年までには小さな起業家が爆発的に増大する、という提言がされています。
そこにあるのは階層ではなく、おそらくネットワークだろう、と推測します。
上意下達の組織構造では役職が重要です。組織は課業を単位として構成され、それぞれのミッションを持って活動する。
そこに業務分担と意思決定が必要ですから、リーダー(組織の中位階層の場合はマネジャー)が機能することになります。
しかし、個々が明確な役割をもってそれぞれが協業するネットワーク型の働き方(あえて組織とは書きません)において、役職は必要だろうか。
おそらく、必要ではないだろう、と考えました。
課業そのものが組織に固定化するのではなく、都度のニーズに応じて最適に編成され、浮動的なメンバーで実現されるとすれば。
そこには階層は必要ではない。
これがなぜ私の頭に浮かび、そして悩ませることになっているかというと、「普通のキャリアパス」の否定につながるからです。
多くの企業において、キャリアパスとは昇進することです。
偉くなることと言い換えてもいいかもしれません。
組織の中にある階層を駆けあがっていく道筋を、私たちはキャリアパスと呼んできました。
しかしもしネットワーク型の働き方が一般的になるのであれば、組織の中のキャリアパスは、一部の大企業においてのみ通用することになります。
多くの小起業家たちにとっては、そのようなキャリアパスは意味がなくなってしまいます。
ではキャリアパスと言う概念が不要か、といえば、そうはならないと思います。
なぜなら人は誰しも道筋を求めるからです。
誰しもが先導者となって、荒野に道をつくることはできません。
誰か一人が先導者になったとして、そのあとに続く99人は、なにがしかの道筋を参考にしながら歩むことを選びます。
それが新しいキャリアパスだと考えます。
その新しいキャリアパスがどのようなものか。
明確な答えはまだ私の中にはありません。
労働市場と言う概念の変化が起きるのか。
プロフェッショナルコミュニケーションのあり方が定まっていくのか。
もやっとした状態ですが、これからさらにいろいろと考えていきたい内容です。
とりあえずは12月22日の土井英司さん、安藤美冬さんとの対談で、なにかがわかるかもしれないなぁ、と期待しています。-
セレクションアンドバリエーション株式会社
平康慶浩(ひらやすよしひろ)