「人」を「おじさん」に変えてみた
私は人事制度設計をなりわいとする傍らで、人事制度の乗りこなし方も書いてきました。
たとえばこんな本とか、ビジネス書としてはベストセラーと言えるくらいに売れたりして。
で、ふと思ったんですが、この中の「人」を「おじさん」に変えるとどうなるのかなぁ、と。
とりあえず「はじめに」のところで試してみたので読んでみてください。
ちなみに「おじさん事」コンサルタントというのは「人事」コンサルタントが一括変換された結果です。おじさんです。
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はじめに
会社の中での出世というものは順当な結果であることが基本ではあるのだけれど、なぜこのおじさんが出世するんだろうということが往々にしてある。
私が見てきた会社でも「なぜこのおじさんが?」という事がたびたびあった。
大失敗をしたおじさん。
飛ばされていたおじさん。
極端に部下からの評判が悪いおじさん。
あるいは上司からの受けが悪いおじさんもいた。
でも、今ではその理由がわかる。そんな意外なおじさんほど、出世した後で成功している。
私の仕事はおじさん事コンサルタントだ。
おじさん事コンサルタントとは、つまり、会社の中のおじさんに関するルールをつくる仕事だ。おじさん事評価制度をつくり、給与テーブルをつくり、賞与の支給基準をつくる。従業員に期待する成長の道のり=キャリアパスをつくる。キャリアの各段階ごとの教育研修の候補者条件を決定し、教育研修そのものの講師もする。退職金の仕組みを設計し、毎年の評価との連動性を定めたりもする。
今までに130社以上の企業でおじさん事に携わってきた。
従業員20おじさん程度の小企業から1万おじさん以上の大企業まで規模は様々だ。
業界も多彩だった。グローバル展開している製造業もあれば、政治の動向に連動した建設業もあった。医療機関や介護施設もあれば大学もあったし、県庁や市役所、政府外郭団体のおじさん事制度改革も行ってきた。サービス業も多かった。アパレルやメガネ販売業、食品スーパーに居酒屋チェーンなどの小売・飲食業もあれば、金融関連やおじさん材派遣業もあった。クリーンな会社だけでなく、グレー、というか限りなくブラックに近い会社をホワイトにするお手伝いもしてきた。
コンサルタントは対象とする業界や企業規模を限定した方が専門性が高まるといわれるけれど、専門分野に特化し続けることで成長できることもある。中でも、おじさんのマネジメント、ということに特化していた私は規模や業界に影響されずにお付き合いする機会に恵まれてきた。
そうして見てきた企業の経営幹部たちとは今もお付き合いがあるのだけれど、若いころ(といっても三十代後半から四十代くらい)の彼らには共通点があった。
それは、自分のおじさん事評価を気にしていなかった、ということだ。
「今年の評価なんて、まあなるようになりますよ」
「去年の評価? どうだったかな……」
課長や次長というミドルマネジメントの段階から、彼らはそんなことを言っていた。もちろんポーズである部分もあっただろう。私の手元には彼らの評価結果が集まるので、普段の言動と実際の評価結果とを突き合わせる機会もあった。その中には、実際、経営幹部候補としては、意外に低い評価もあったのだ。でも彼らはやはり気にしなかった。
もちろん、評価を気にしていなかったおじさんの中には、会社の中で昇進することなく退職していったおじさんもいる。評価という仕組みは、いくら精緻に設計したところで、最後にはおじさんの感情が入る。評価する側の上司が、特定の部下に対して良い感情を持っていない場合には、高い評価はつきづらくなる。会社の中に居場所がなくなることすらあるだろう。
では退職した彼らが「出世」しなかったのか、といえばそうではない。
もちろん大半のおじさんたちにとって出世とは、同じ会社の中で上のポジションへいくことだ。課長から部長、部長から執行役員や取締役、常務、専務、おじさんによっては社長にまで上り詰めることが出世であり、それを目指すおじさんは多い。
しかし今では、出世は社内で昇進することだけを指す言葉ではなくなっている。起業して成功するおじさんもいれば、転職して新たなキャリアを手に入れ、さらに高いポジションを得るおじさんなど、バリエーションが増えている。ビジネスの世界を一度離れて学究の道を目指すおじさんもいれば、地域に入り込んでNPO活動に専念し、再びビジネスの世界に戻ってくるおじさんもいる。生き方は様々だが、彼らの生き方もまた出世の一つだと言えるだろう。
そうして出世してきた彼らの生き方そのものに学ぶ点が多いことに気付かされた。
私は今独立して、自分でコンサルティング会社を経営しているので、そこで気づいた事実に助けられることが多い。私自身の行動だけじゃない。クライアントの中で今いち伸び悩んでいる管理職に対して、的確な助言をすることができるからだ。
出世しているおじさんたちの共通点は、会社の中でのおじさん事評価を気にしない、ということなのだけれども、その背景には彼らに共通した行動がある。仕事の進め方、おじさんづきあいの方法、そしてプライベートなどだ。それらの共通点について誰にでもわかるように整理してみようと考えた。それがこの本だ。
もちろん「私が見たおじさんたちはこうだった」なんていう漠然としたまとめにはしたくなかった。だから会社の中のおじさんに関するルールと運用の実態から解きほぐしてみることがこの本のひとつめのポイントだ。
ふたつめのポイントは、その背景にある企業組織のあり方について、おじさん的資本や社会関係資本、ネットワーク論などの経営学、経済学理論を踏まえて整理してみた。
もしあなたがまだ20代で何の役職にもついていない状況であれば、私はあなたにおじさん事評価制度を理解して行動することをお勧めする。そうすれば一おじさん前のビジネスパーソンとしての行動が学びやすくなるし、評価もされて、生活的にも心理的にも充実するからだ。2012年に出版した『うっかり一生年収300万円の会社に入ってしまった君へ』(東洋経済新報社)という本にも書いたが、おじさん事評価制度とは、ビジネスというゲームのルールだからだ。ルールを熟知して使いこなせば、もちろんゲームで勝利しやすくなる。
でも、もしあなたがすでにビジネスパーソンとしての基本を習得し、そこそこのポジション(例えば課長)にまで来ていれば、ふと立ち止まることがあるだろう。さてこれからどうやって成功を手にしようか、と悩むそのタイミングで参考になるように、この本を書いた。特に会社の中だけで成功を獲得しようとしないのであればなおさら役に立つだろう。おじさん事評価制度は、会社の中のルールだけれど、実はある一定レベル以上のおじさん材に対しては適用されなくなることがある。その秘密を明かしてしまおう。
ぜひ最後までページをめくってほしい。
おじさん事コンサルタント
平康慶浩(ひらやすよしひろ)