あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

まじめな話と、雑感(よしなしごと)とがまじっているので、 カテゴリー別に読んでいただいた方が良いかもしれません。 検索エンジンから来られた方で、目当ての記事が見当たらない場合 左下の検索窓をご活用ください。

人事では、制度と運用のどちらが大事なのか

■ 人事の仕組みと運用は補完的

人事制度は、仕組みそのものよりも運用が重要だ、と言うことをよく言われる。

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たとえばこんな場合だ。

 

・どんな仕組みをつくっても、評価者がダメだったら、制度はうまく機能しない

・精緻な仕組みをつくっても、そもそも使われなかったら意味がない

 

それは確かにその通りなんだけれど、運用は仕組みに勝るのか、というとそうじゃない。

実はこれは一方通行の意見であって、結論としてはぐるぐる回るのだ。こんな図のように。

 

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 ■ 制度だけでは人の行動は変えられない?

人事制度設計を生業にし始めた20代の頃、僕は「制度重視派」だった。

良い仕組みがあれば、運用する人たちも成長するだろう、と考えていた。

実際にそういう仕組みをつくって、30億円から300億円にまで売り上げを伸ばすことができた企業もあったからだ。

しかし、ある会社に向けて作った仕組みでこんな問題が起きた。

 

前提として、その会社の新しい人事の仕組みはこんなものだった。

 

  • 絶対評価で点数をつける
  • 点数に応じて給与を増やす
  • 点数が低いと給与が下がる

 

するとこの会社で、90%以上の上司が、部下に良い点数をつけてしまったのだ。

理由は簡単だった。

「部下に嫌われたくない」人が多かったのだ。

表向きは「人はほめて育てるべきだ」ということだったけれど、実際には、

「あなたにはダメな点がある」ということを言いたくなかったのだ。

 

 制度としては、公正な評価を前提として設計している。

しかし運用面で、「公正」な評価がされない。

結果として、それぞれの上司がつけた評価結果をそのまま活用すると、みんなの給与がとんでもなく増えることになり、人件費を圧迫することになる。それはとても許容できないので、人事部側で調整し、平均的な昇給に落ち着かせた。

もちろんその結果、社内に不満が噴出した。

私はA評価だったはずなのに、なぜB評価になっているのか、と。

 

 

■ 問題は自己評価にあった

なぜそういう問題が起きたのかをより具体的に確認していくと、問題点は自己評価にあることがわかった。

この会社の従業員は皆、資格職だった。それも難易度の高い資格だった。

故に、彼らは、自分自身に対する自己評価が極めて高かったのだ。

 

自己評価⇒上司評価

 

というステップで行う評価のばあい、上司が部下の評価を下げなければいけない。そしてそれがとても心理的負担となって、評価が高止まりすることになった。

 

そもそも、資格職の集団なんだから、世間一般よりも高いレベルであったとしても、社内では標準的だ。人はそのことをどうしても理解できないのだ。

 

そこで制度を変更した。

具体的には評価シートから自己評価欄を削除した。

結果として制度は公正に運用されるようになり、上司による評価も適切に行われるようになった。自己評価がなくなったからといって、そのことに不満が出ることもなかった。

 

 

■環境変化にあわせて、成長し続ける制度と運用

この会社ではその後、およそ3年おきに制度のマイナーチェンジを繰り返した。

それはこんな状況で行われた。

 

 役員制度と組織体制の変更 ⇒ 等級と昇格基準の見直し

 

 M&Aによる他社買収 ⇒ グループ全体としての制度整合性確保

 

 新規事業ニーズの高まり ⇒ 行動評価指標の改定

 

 経営層の刷新と世代交代 ⇒ 人事戦略策定および育成計画策定

 

 

重要なことはタイムリーに変化させること。

そしてさらに重要なことは、人事制度をなんのために用いるのか、という軸をブラさないことだ。

人が最も重要な経営資源であるからこそ、人に対する意識を絶やさず、活躍と成長を支援していく。その軸をブラすことなく変化を続けていければ、制度も運用もさらによくなっていく。

制度が先でも、運用が先でもない。

まず最初にあるのは、企業理念であり人材像なのだ。

それは簡単に言えば「こんな人と働きたい」「こんな人こそが企業を成長させてくれる」と思える理想像だ。制度と運用はそのために設計しなくてはならない。

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)