あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

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洗い替え方式の給与制度は意外に多い?

最近人事制度改定を受託した会社で、立て続けに「洗い替え方式」の給与制度を見た。

もちろん、それを変えてほしい、と言う依頼なのだけれど、不思議だなぁと思う。

そもそもなんでこんな仕組みを設計したんだろう、って。

 

洗い替え方式の給与制度とは、評価結果によって毎年給与額が変わる方式のことだ。

たとえばこんな感じ。

 

S評価 : 月給50万円

A評価 : 月給48万円

B評価 : 月給46万円

C評価 : 月給44万円

D評価 : 月給42万円

年俸制の場合もある。

 

簡単に言ってしまえば、洗い替え方式は二つのことをバーターにしている制度だ。

「人件費管理を容易にするために」「働く人のモチベーションを自己責任にしている」制度だ。

 

評価が下がったときを想像してみてほしい。

A評価を取り続けていたとして、月給は48万円のまま。

そしてある年B評価をとってしまうと、月給は46万円になる。

十分高いからいいじゃないか、と思えるのは他人ごとだからで、本人にすれば2万円のダウンとしか思えない。

 

なぜそう感じてしまうのかといえば、これはプロスペクト理論で説明できる。

人は1万円もらうよりも1万円を失うことを嫌がるのだ。

あたりまえだと思うかもしれないけれど、ファイナンスの授業でよく取り上げられる例を考えてみよう。

 

① サイコロを振って、1~3が出たら1万円あげる。4~6が出たら何もあげない。

② まず1万円あげる。1~3が出たらそのまま。4~6が出たら返させる。

 

①と②はまったく同じことを言っているのだけれど、②の実験の対象となった人はとてもストレスを感じるのだ。

 

給与の仕組みで言えば、「減給の常態化」ということになる。

きっと洗い替え方式を導入する際には、それが「減給の常態化」なんて意図していなかったことだろう。

でも、結果としてはそうなってしまう。

 

日本では幸い、月給は下げずに賞与で人件費をコントロールする仕組みの方が一般的だ。

世界では珍しい仕組みではある。賞与が固定的に出るようになることも多く、そのことが人件費コントロールを難しくしたりもする。

だけれど、減給が常態化したためにやる気を失っている組織を見ていると、日本型の月給賞与型も十分に意義がある、と実感できる。

 

もしあなたの会社で、洗い替え式の給与制度を使っているのなら、モラールサーベイを行うなどして、従業員のやる気を測ってみることをお勧めする。

まずい状態になる前に、手をうったほうがいいからだ。

 

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)