同一労働・同一賃金という危険な考え方
最近、人事改革に関するニュースの取り上げられ方が、浅くて一面的な気がしている。
たとえばユニクロのこの記事だと、制度の目的が「正社員のつなぎとめ」だと書いている。
しかし、実態としては単なる業務の効率化だ。
たとえば10年以上前から週休3日制を導入している某社の導入理由は、シフトコントロールの効率化にあった。
店舗の開店時間は長期化の傾向にあり、10時~20時というくらいはあたりまえだ。しかし1日の労働時間を8時間としていると、残業させるか、あるいは開店時か閉店時のどちらかに店舗管理者がいない状態をつくらなければいけない。
一方で土日などの繁忙期は、店舗管理者レベルの人材が複数いた方がよい。
となれば8時間労働を10時間労働にして、平日の店舗管理は1人で残業なしでできるようし、土日は2人体制でシフトを組めるようにする方がいい。
僕はユニクロの内部事情を知るわけではないけれど、おそらくそちらの事情の方が強かっただろう、と想像する。
そもそも介護や子育てを支援するのであれば、時間給正社員の仕組みの方が現実的だ。
僕が親しくさせていただいているI-Plugという会社がすでにこの仕組みを導入している。I-Plugは、オファーボックスという新卒向けダイレクトリクルーティングを提供する会社で、これから伸び盛りだからこそ多様な人材を活用するために、この仕組みを導入したとのことだ。
今日ニュースを読んでいて、やはり浅くて一面的な記事に疑問を感じた。
イケアの人事制度についてどうこう言うつもりはない。
疑問を感じたのは「同一労働・同一賃金」が良い仕組みだ、という記事の論調だ。
勘違いしている人が多いが、「同一労働・同一賃金」はすでに一定の業界で浸透している。
典型的なものが店舗ビジネスだ。
むしろ飲食店や小売店などでは、時給制アルバイトの方が月給制正社員よりも高い給与を受け取っていることすらある。
賃金が労働市場との関係=それだけの給与を払わなければ雇えないという理屈、で成立するのであれば、そこには市場原理が働く。
労働力という商品が取引される前提であれば、たしかにその取引価格=給与は同じ額になっていく。
ただし、安い方へ。
3年前に出版した「うっかり一生年収300万円の会社に入ってしまった君へ」にも記したが、同一労働・同一賃金が普及するということは、単純労働を担当する正社員の給与が下がっていくということだ。
どこかに幻想がある。
たとえば、働かないおじさんが年収1000万円もらって、派遣の女性と同じ仕事をしている。派遣の女性の年収は300万円に満たないけれど、仕事は女性のほうができる。おじさんは役に立たない、というイメージだ。
だから、派遣の女性にも年収600万円とか800万円とか払うべきだ、ということになる、だろうか?
会社はそんなに甘くはない。
そもそも、働かないおじさんの年収は今どんどん下がっている。そして、会社にいられなくなっていっている。
だから「同一労働・同一賃金」という幻想は、働かないおじさんの年収を300万円に下げる方向で働くのだ。
重要なことはそこじゃない。
何年働いても同じ仕事しかさせてもらえない。ステップアップやチャレンジする機会を与えられない、派遣社員やアルバイトの「働かせ方」や「キャリアパス」に問題があるのだ。
解決するのなら、そこにメスを入れなければいけない。
単純労働はそもそもどんどんなくなっていく。
たとえばアンケートの回収と分析、という作業がある。以前ならずいぶん手間がかかったが、今やクラウド上で瞬時に完了する。そもそもそういう業務自体が不要になっている。
だから、派遣やアルバイトでもキャリアを積んでいけるようなチャンスを与える仕組みの方が必要なのだ。
イケアの人事制度に関する記事の中で、ライフパズルという文言があった。
スウェーデンではよく使われる言葉だそうだが、ダイバーシティよりも前向きで、かつ解決すべき課題があることをイメージさせる、良い言葉だと思う。
ライフパズルを報酬だけではなく、キャリア全体を意識した課題として整理してゆけば、さらに企業も働く人も幸福になれるだろう。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)