ライフイベントと収入のギャップをどう埋めるべきか
報酬制度がライフイベントと関係なくなって久しい。
新卒採用で終身雇用という会社では、会社側がライフイベントを意識した人事の仕組みを用意していた。
多くの人が結婚する年齢あたりで役職に就く。役職に就くと給与が増える。
結婚すると家族手当が出る。子どもが生まれたらさらに手当が増える。
子どもが成長してお金がかかる時期には毎年給与が増え続ける。役職についていない人であったとしても、残業代で稼ぐことができた。実際、課長や部長クラスであったとしても、たくさん残業している係長と月給は大きく変わらない、なんてことはあたりまえだった。
それじゃあ役職者はどこで得をしていたのかと言えば、会社の経費だ。同僚や部下を連れて飲みに行く費用を会社につけることができた。そうして部下との関係を良好に保ち、組織力も高めていった。
35年ローンで家を買うこともあたりまえだった。そして55才とか60才の定年のときに残るローンを一気に支払えていた。
定年後は悠々自適の引退生活だ。趣味に生きる人もいれば、新しいことを始める人もいた。
しかし今は、典型的なライフスタイル、というものがない。
だから結婚や出産、育児というライフイベントのタイミングは人それぞれだ。結婚しない人もいるし、子どもを作らない人もいる。
そして、異なるライフイベントが生まれた。老親の介護がその典型だ。
また、変化がストレスを生んだことで、病気休職・退職者は1990年代までの倍以上に増えている。
一方で会社側は、正社員の終身雇用はするが、ライフイベントに対応する人事の仕組みを取り下げている。若手に下積みを強要しても転職されてしまうだけだし、高齢者に昔の下積み期間の賃金を上積みして払っていたのでは生産性が伴わない。
とはいえ会社側が一方的に契約を反故にしているといわけではない。ルールを変更しているだけだ。新たな人事のルールでは、生産性とか成長性とか付加価値にあわせて報酬を決定するようになっている。
ということは。
ライフイベントにはお金と時間がかかる。
しかし自動的に、典型的なライフスタイルを維持できるような報酬の伸びはない。
だから、個人が自分のライフイベントのために、報酬を増やす努力をしなくてはならなくなっている。
だからこそ、社会に出てからも自発的に勉強しなくてはいけないし、積極的に経験を積まなければいけないし、多くの人と知り合いつながりを作らなければいけない。自分が誰かに信頼されるように行動しなければいけない。
そうしなければ、報酬が増えないからだ。
そういう努力をせずとも、低い報酬を得続けることはできる。
しかしそれだとライフイベントに対応できない。
自立的に成長を目指さなければ、昔あたりまえに手に入っていたライフイベントすら手に入らない。
自立性が求められる時代に、自立性を持たなければいけない、ということを知らしめるのは誰だろう。
それは義務教育機関であり、高等教育機関ではないだろうか。
学習し続けること、経験を増やすことが自分自身の資本となり、やがて生活の糧となるということ。
また、他人とつながることが価値を生むきっかけとなり、想定できないような機会をもたらすものになるということ。
子どもたちにはそうして新しい世界のルールを知らせていかなければいけない。
それはつらいことではなく、とても楽しいことだということも。
では、今すでに活躍している世代には?
おそらく、そこでは企業側の対応が重要になるだろう。ルールが変わっていることを知らせ、啓蒙し、学習の機会や経験を拡げる機会を与え、他人とつながる機会を与えていく。
それが今求められるキャリア教育だ。キャリア教育の結果、人は働くモチベーションを高め、人生を充実させることができるようになる。それは企業にとっても大きなメリットとなる。
そんな取り組みをどんどん広げていきたい。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)