あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

まじめな話と、雑感(よしなしごと)とがまじっているので、 カテゴリー別に読んでいただいた方が良いかもしれません。 検索エンジンから来られた方で、目当ての記事が見当たらない場合 左下の検索窓をご活用ください。

制約社員なんていわなければいいのに

書店で本を見ながら、久しぶりに、心からむかつく本がありました。
書名を読み、目次を読み、中身をざっと読み、さらにその思いは強まりました。
本気で、ふざけんな!、と思ったのです。
あまりにも腹がたったので、もちろん買いました。

でも、ネットで著者へのインタビュー記事を読むと、その思いは消えていきました。
ふりかえってみれば、たった一つのキーワードが、私の心を本気でいらだたせたのです。

制約社員」と言う言葉です。
その本はこちらです。

 

 


中身はとてもまっとうな本なのです。
多様化した生き方の時代に、それらの人々をどのように戦力として活用するか、というとてもまじめな本です。
著者は、すばらしい経歴の先生です。
ネットで見つけたインタビュー記事を拝読しても、そのお人柄がいいことがよくわかります。
「制約社員」と言う言葉にしても、その否定的なイメージに対して、労働条件に制約のある社員を活かす企業がさらに成長する、と断じておられます。
そのためには仕事基準の人事制度に組み替えなければいけない。
従来型の年功処遇を捨てることで、女性や高齢社員もうまく活用してゆける、と優しい気持ちで書いておられます。

仕事ベースでの働き方、処遇にすべきだという今野浩一郎先生のおっしゃることには、私は全面的に賛同します。

でも、でも。
あえて高名な先生に一言申し上げられるのなら。
すべての人は「制約社員」に成りうると思うのです。
年を取ればもちろんそうです。
共働きで子供ができれば、男性でも育児休暇を取らざるを得ないかもしれない。
介護問題もそうです。
精神的、身体的に病むこともあります。

それらを「制約」という、企業サイドに立ちすぎた言葉でくくるのはどうかと思うのです。
あまりにもそのものズバリすぎて、拒否感が先に立ちます。

まるで「非制約社員」であることが当たり前のような書き方なのです。

どんな言葉が代替になるかわかりませんが、せめてもう少しやわらかい言葉にできなかったものでしょうか。

「制約社員」と言う単語からは、実験対象を見つめるような冷酷な視線しか感じません。
その背後にどれだけすばらしい思いがあったとしても。
健常者が障がい者を温かい目で見るような、すばらしい思い」、に見えてしまうのです。

多様性を認める人事マネジメントとは、方法は同じでも、思想が全く異なると思うのです。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)