あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

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子会社が自立するための人事の仕組み

企業の合併・M&Aのイラスト

今日は会社の成長を実現するための人事改革のお話です。

 

子会社の人事制度を設計する際には、注意すべき前提がある、ということは常々理解していました。

これまでも外資系製薬会社の子会社とか、大手商社の子会社とか、ゼネコンの子会社とか、銀行の子会社とか、飲食チェーンの子会社とか、監査法人の子会社とか、さまざまな子会社の人事制度設計に携わってきたからです。

 

注意すべき前提は、はっきり言ってしまえば以下の点です。

 

・一定役職以上は親会社出身者で占められる。

・親会社よりも低い給与水準にしなければいけない。

・毎年の賞与原資は親会社に決められる。

 

あとは、親会社から来た社長に理解できる制度にしないといけない、といった点でしょうか。

親会社から社長で来るような人には転職経験のない人が多く、どうしても自社の制度が世界のすべてになりがちだからです。

たとえばコテコテ職能型の親会社から来た社長に対して、職務等級の人事制度を伝えてもすぐには理解してもらえません。

 

とはいえ独自性を出せないというわけではありません。

 

要はポストと報酬以外のところについて、しっかりとしたロジックを整理して必要性を示せば、納得してもらえることが多いからです。

そして最近気づいたのは、ある要素を新人事制度に組み入れれば、時として親会社を超える成長率と利益額を実現できる場合があるということです。

 

といってもそれは決して目新しいものではありません。

 

「子会社独自の成長戦略」を組み入れるのです。

 

そもそも子会社の人事制度設計における検討軸は、たいてい「生産性」「業務改善」などです。

その先には、利益率の向上や株主利益の引き上げが常に目標として掲げられます。

もちろん成長戦略も語られはするのですが、子会社独自の成長戦略の例はあまりみません。

むしろ親会社を含めたグループ全体の中での成長戦略の一部に紐付けられることが多いように思います。

 

実は私もそのことについてあまり疑問を持っていませんでした。

子会社としてグループ全体最適に貢献することは当たり前だろう、と思っていたからです。

 

しかし2つの人事的視点から、それだけでは行き詰る&息詰まることが多いことに、ようやく気付いたのです。

 

第一の詰まりは、成長戦略に貢献する方法がわからなくなる点です。

生産性や利益率を軸において人事制度を作り運用するということは、一人一人の社員に、決められた仕事の品質を維持しながらスピードを重視して行動してもらうことでもあります。

そのような業務をあたりまえに進めていると、人はどうなるでしょう。

目の前のことをよくするための知恵は使うのですが、それを疑う気持ちがどんどんなくなっていくのです。

それは全体が伸びているときには良いのですが、そうでなくなったとき、居場所すらなくしてしまうことがあります。

 

第二の詰まりは、給与が増えなくなる/増えても毎年わずかだけになる点です。

人件費枠が決められ、生産性が重視される会社では、給与の仕組みは、完全なところてん型の年功昇給か、ポスト配置を重視した職務型のいずれかに収れんします。

そして社員は誰も将来に対して前向きにならず、今の安心を重視し始めます。

そうして誰もが前向きな発言ができない、息詰まる社風が形成されてゆきます。

 

しかし子会社独自の成長戦略を組み、生産性ではなく対前年売上額を目標とし、利益率を下げてでも中長期の投資計画を実行してリターンを得ていくようにすれば、どちらの詰まりも薄れてゆきます

そして、成長戦略を実現するためには、戦略に沿った行動をとった人に報いる仕組みこそが必要となります。

だからこそ、子会社の成長戦略を実現する際に、人事制度こそが重要な変革ドライバーになるのです。
ぜひ皆さんも、自社の成長戦略を支える人事制度になっているかどうか、考えてみてください。

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)

 

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部下への「フィードバック」の効果的な進め方

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※当記事は三井住友銀行経営懇話会向けの会報誌Netpress(ネットプレス)からの依頼で平康慶浩が執筆した内容を転記したものです。

 

 

当記事のポイント=======

1.失敗している(うまくいかない)フィードバックは、「気が向いた時」に、「一方通行」で行われています。

2.一方、成功するフィードバックは、「予定より多め」で、「聞くだけ」で行われています。

3.問題がある会社は、フィードバックの目的を踏まえて、これまでの進め方を見直す必要があります。

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1. フィードバックと人事面談は何が違うのか

ヤフー株式会社の「1on1ミーティング」が書籍で紹介された2017年頃から、面談手法としての「フィードバック」が導入されるようになりました。

それまでも人事評価などを目的とした面談はあったのですが、たいていこんな不満が口にされていました。

 

【上司側】
・忙しいのに、わざわざ面談の時間なんかとれない。
・褒めることも叱ることもタイムリーにやっているから、それで十分だ。

 

【部下側】
・どうせずっと説教か自慢だけだから、面談なんていらない。
・そもそも私の仕事ぶりを知っているわけでもないのに、何を面談するのか。

 

上司と部下、それぞれの言い分は異なりますが、少なくとも「面談なんてやっても意味がない」ということについては共通していました。

しかしながら、ヤフーの事例が評判になるにつれ、フィードバックという手法を使えば面談も効果があるらしい、ということが広まり始めました。

そして、多くの会社でフィードバックの手法が採り入れられていきます。

フィードバックの実施に際しては、従来の面談と差別化するために、面談者である管理職に対して以下のような点が指示されるのが通例です。

 

  • 開催回数を増やす……人事面談は半期に1回が基本でしたが、フィードバックは少なくとも四半期に1回は行う。できれば、毎月1回以上の頻度で行うのが望ましい。
  • コーチング手法を採用……部下の話を丁寧に引き出す傾聴の手法が導入すること。上司側から一方的に通達するのではなく、課題や今後の行動について、聞き出すような進め方で面談を行う。

 

このようにして広まったフィードバックですが、人事コンサルタントとしての私の実感としては、うまくいっている会社が半分、そうではない会社が半分、といったところです。その違いはどこにあるのでしょうか。

 

2. 失敗するフィードバックは「気が向いた時」に「一方通行」

失敗しているフィードバックの現場を見ると、たいてい同じ原因が潜んでいます。

フィードバックが失敗している根本的な原因は、上司側の気が向いた時に行われていることです。

「忙しいから」という理由で人事が定めているタイミングや回数を守らないためにそうなるのですが、その結果、フィードバックの進め方が極端になりがちです。

上司が忙しいと、「今日時間があるからフィードバック面談しよう」というように突然開催されたり、定められた期間以上に間が開いたりします。

すると部下の方も準備ができないので、話す内容が整理できていません。

結果としてフィードバックの場が上司からの一方的な伝達の場になったり、実務ミーティングと同じようなやりとりになったりします。

そうなってしまうと開催の意義が低下し、さらに開催頻度が減っていきます。

 

また、上司が部下の状況を十分に把握しきれていない場合、フィードバックの場がクレームの場になることがあります。

そのようなフィードバックは、しばしば予定していた時間を超えるため、尻切れトンボになってしまいます。

上司側は面倒な気持ちになって、次の開催を延期したくなるでしょうし、部下側は「どうせ話をきいてくれない」と思ってしまいます。

そしてやはりフィードバックに意義を見出せなくなってしまいます。

 

このように、うまくいかないフィードバックは、上司側が一方的にダメ出しをするか、部下側が一方的に不満を言い続けるか、どちらかのパターンで失敗することが多いのです。

結果として、「気が向いた時」に「一方通行」のフィードバックとなってしまい、むしろやらないほうがましなくらいの状況に陥ってしまいます。

 

3. 成功するフィードバックは「予定より多め」で「聞くだけ」

では、フィードバック手法を成功させている会社は、どんなふうに運用しているのでしょうか。

成功している会社でフィードバックは、とにかく開催回数が多いことが特徴です。たとえばある会社では、人事から四半期ごとに開催するよう指示されているにもかかわらず、平均開催頻度は1か月半おきだったりします。

別の会社では、毎月の開催を指示されていますが、可能な時には隔週で実施することもあります。

また、開催時のフィードバックの進め方ですが、傾聴しかしていないことが多いようです。上司からの不満も、部下からのクレームもなく、部下側が話す事実について、上司がうなずいたり質問したりするだけなのです。

 

肩の力が抜けた感じで、スムーズにフィードバックが実施されていることが大半です。

 

こんな進め方で、はたしてフィードバックがうまくいくのか、と疑問をもつ人もいるかしれません。ところが、これがうまくいくのです。

 

4. そもそもフィードバックの目的は「気づかせる」こと

ダメ出ししたりクレームを聞いたりするフィードバックが失敗し、肩の力を抜いて事実を確認するだけのフィードバックが成功するのはなぜでしょう。

 

それは、フィードバックの目的が「自発的な行動を促す」ことにあるからです。

 

ダメ出しは上司からの指示や強制となるため、自発性は生まれません。

また、部下の不満を解消したところで、行動にはつながりません。

自発性は事実の確認を踏まえた気づきによってのみ生まれるのです。

人は誰かに言われたからではなく、自分で気づくことしか行動できない生き物です。

傾聴を軸としたフィードバックの進め方は、その目的のためにうまく機能します。

そして開催頻度が多くなるほどに、気づきの機会は増えていきます。

結果として、間違った行動をとる期間が減り、結果を生み出すための適切な行動が増えるようになります。

 

ぜひ、「正しく指摘する」ことではなく、「気づかせるために聞く」ことを目的として、フィードバックを運用してみてください。

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ) 

 

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