サイバーエージェントの福利厚生からダイバーシティ改革の本質を考えてみた
最近ダイバーシティについて新しい見解を提示しなきゃいけないので、基本に戻って各社の福利厚生を調べている。
そうして目に留まったのが、斬新な人事の仕組みで知られるサイバーエージェントなんだけれど……本当にすごい!
多くの人事マンは当然のこととして知っているのかもしれないけれど、あらためて見てみると感動的なので、ぜひ以下のリンクを見てみてほしい。
そのうえで、僕がすごいと思ったポイントをいくつかあげてみよう。
1.働く女性の悩みに寄り添っている点
世の中の多くの企業が育休取得率を高めよう、というレベルで検討を進めているのに対して「妊活」サポートがある!
そのための突発的な休暇取得も可能だし、専門医によるカウンセリングも実施。
現実問題として、男女を問わずキャリアを積んでいくと仕事が楽しくなり、結婚や出産が遅れがちになる。最近はまあ、結婚してから妊娠、という手順でもなくなりつつあるし、法的な結婚以外のパターンも増えているので結婚はそれとして、妊娠はそうはいかない。
そんな漠然とした不安を解消し、サポートしてくれる仕組みを導入しているのは本当にすごい!
また、出産後のサポートも、在宅支援や子ども行事のための休暇で整備している。
休暇取得方法についても、その理由が周囲にわからないように配慮するなど、まさに「寄り添った」取り組みとして素晴らしいものだと実感できる。
2.退職金制度がシンプルでメッセージがはっきりしている点
退職金制度(勤続インセンティブ)
いい感じの仕組み。
興味深いのは、30才から積立開始で、40才から受け取れる、というところだ。
たとえばキャリア採用の人数もそれなりにあるはずだけれど、仮に30才で中途で転職してきてもすぐに積み立てが始まる。
説明には「勤続インセンティブ」とあるけれど、これはこう読み替えられるだろう。
20才から30才まではチャレンジ期間として成長してほしい。
30才から40才までの間、会社の利益を高めることに全力を投じてほしい。
40才からはいつでも、自分自身のチャレンジのために社外に飛び出すことを含めてキャリアを考えていってほしい。
つまり、「退職」を含めた勤続インセンティブだ。いつまでも会社にしがみつかなくてもいい退職金の仕組みだ。
代表の藤田晋さんのメッセージもシンプルでわかりやすい。
3.会社が変わらなければこれらの仕組みも活きてこない
じゃあこういった仕組みをどこの会社でも導入できるのか、というとそうじゃない。
サイバーエージェントでは藤田さんがしっかりとした理念を持って制度をつくっただけでなく、その運用に値する社風があるのだろう。
そうじゃない会社では、例えば育休を取る程度の話であってもこんな声を聴く。
「子どもをたくさん産んだからって、育休を何度もとって平気で会社に戻ってくるなんて信じられない」
「女だけいろいろサポートされるのって、男女差別でしょう」
「実際問題出世しようと思ったら、キャリアがストップするような福利厚生なんて選んでられないですよね」
退職に関しては、退職金を気にしていない人の方が多い。多くの人はどうやって安心して働き続けられるか、の方を意識している。
先進的な福利厚生が機能しない会社には特徴がある。
それは「中央集権型の意思決定」で「同質の働き方」の会社だ。
こういう会社は、シンプルな目標を達成するためには大きな力を発揮する。
地頭のよい新卒体育会系が主流を占めていた時代がその典型だ。
しかしそんな働き手はどんどん減っている。だから多様な働き方を認めなければ、企業がそもそも機能しなくなりつつある。
そのためにダイバーシティを叫ぶ会社が増えているわけだけれど、中央集権型の意思決定のままで、同質性を尊ぶ社風を残したままで、ダイバーシティは機能しない。
ダイバーシティ改革の本質は社風の改革であり、もっとわかりやすく言ってしまえば、経営陣と管理職層の意識改革だ。
「オレはこうして出世してきたんだ!」というおっちゃんに、その成功体験を忘れさせることができるかどうかが大きな要素を占めているのだ。
人をいれかえることなくこの目標を達成することは、とても難しい。
でも、人を入れ替えることの影響はとても大きいから、意識改革をなんとか進めなければいけないんだけれどね。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)
ビンゴゲームが意外に従業員満足度に貢献する件
ある会社で、ビンゴゲームを報酬にリンクさせてみたら、なぜか離職率が下がった。
その会社では、もちろん評価制度はちゃんと運用していた。
ルーチン業務をしている人に対してはチェックリスト形式。
企画系業務をしている人に対しては、目標管理制度。
そして全員に対して、行動を確認するためのコンピテンシー評価。
これらを勘案して、昇給や賞与にも反映してきた。
でも、一定水準より離職率が下がらなかった。
もちろんある程度の離職率は健全だ。
離職率ゼロ%の会社はいい会社なんかじゃない。
動脈硬化一歩手前の不健全状態だからだ。
せめて2~3%の離職率があった方がよほど健全だ。
しかしその会社ではそれよりも離職率が高かった。
辞めるという人に、人事が話を聞いても本当のことは聞けない。
だから辞めてほしくない人に限定して、僕が何人かの話を聞いてみた。
そうしてわかったことは、評価と報酬の関係に納得がいかない、というものだった。
評価に公平性がない。
上司の好き嫌いが反映されすぎている。
結果として、「自分はできているのに給与が低い」「あんな奴の給与と同じなんて耐えられない」という意見があった。
「出来ない連中がぐちぐち言い過ぎる」「ねたまれるのに疲れた」と言う意見もあった。
だからせめて、自分と同じレベルの会社にランクアップ転職します、という意見などがあった。
彼らが正しいのか、勘違いしているのかは定かではないが、辞めてほしくなかった人財であることは確かだ。
そこで、評価者間の公正性を保つためのさまざまな改革をした。
それらはもちろん効果を発揮したのだけれど、やってみた改革の中に変な取り組みがある。それがビンゴゲームだ。
ビンゴゲームというと、忘年会などで行われるものと考えるかもしれない。
最初に数字がそろった人から景品をもらえる。
でもこの会社では、業績賞与の一部をビンゴゲームで支払うようにしたのだ。
評価も何も関係なく。
最高額は20万円。
次が10万円、5万円、2万円、1万円、と続く。
20万円は3人で、10万円は10人、5万円は20人、といった具合にした。
(金額と人数については本当のことは書けないので、イメージだ)
そうして、業績報告のための全社集会で、ビンゴゲームをした。
盛り上がり方はすごかった。
もらえた人は喜んだし、もらえなかった人も、残念がったが、それほど悔しそうではなかった。
ビンゴゲームを2回、つまり1年が経ったころから離職率が下がったことがわかった。
ビンゴゲームを4回やったあたりからそれは確実なものになった。
もちろんビンゴゲームだけが理由ではないだろう。
でも、評価に対する不満が、偶然と言う名の公平さで和らぐのかもしれない、という実感はできた。
今でもその会社ではビンゴゲームをしている。
註:どの会社?と問い合わせをいただいても、答えられませんのであしからず。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)
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