「落ちているごみを拾える人」をどう育てるのか
お店を出しているあるクライアント先で、アルバイトの評価の仕組みを設計した。
そのとき議論になったのが「落ちているごみを拾えるかどうか」だった。
組織の中で使う評価の仕組みを作っていると、評価されなければ人は何もしないんじゃないか、と錯覚してしまうことがある。
刺激、と言う意味のインセンティブ設計では、評価と組み合わせてさまざまな仕掛けを用意する。
代表的なものはもちろんお金だ。
評価されたらお金がもらえる。
逆に、評価されなければお金がもらえない、という仕組みだってある。
人には承認欲求があるので、評価するだけでインセンティブになることもある。
故事成句にあるように、人は自分を認めてくれる人のために頑張ることができるからだ。
ただしその場合には、ちゃんと「笑顔」や「言葉」「敬意」などとセットにしてその人に伝えなくてはいけない。
評価をインセンティブの仕組みにするとき、他にも、出世が早くなるとか、経費がたくさん使えるようになるとか、表彰されるとか、いろいろな仕掛けを用意する。
刺激によってなにかをさせようとするのは、外発的動機だ。
社長としては、もちろん店の中にごみが落ちていたら拾ってほしい。
じゃあ、仕事を覚えてもらうためのチェックリストに、「ごみが落ちていたら拾う」という項目をつくるべきだろうか。そうして、チェックがつかなければ評価点数が低くなるようにすべきだろうか。
あなたが社長ならどうするだろう?
実は、外発的動機で人を動かすことにはデメリットも多い。
特に「評価してお金を増やす(減らす)」とデメリットを生じやすい。
このことについては以前のブログに書いたので、そちらを見てほしい。
評価してお金をあげると、「お金を上げなくなると仕事をしなくなる」という行動を生み出す。
評価してお金を減らすと、「前向きなチャレンジをしなくなる」と言う結果を生み出す。
もちろんそうならないようにいろいろと工夫するのだけれど、外発的動機にデメリットがある、ということを理解せずに設計してしまうと、大きな問題が生じる。
チェックリストに「ごみを拾う」と言う項目を増やすと、それは外発的動機となる。
やらなければいけないことであり、やらなければ評価が低くなる。
以前に設計したクライアントでは、社長の要望もあって、チェックリストに「ごみを見つけたら拾う」と言う項目を書き入れた。
そうして、アルバイト採用後の研修で、似たような他の項目と合わせて徹底して教えてもらうようにした。
(似たような他の項目とは、「遅刻をしない」とか「身だしなみを整える」とか「挨拶は大きな声でする」というようなものだ)
しかし、人は評価されなくても、なにかをすることができる。
それは、内発的動機、という概念で説明できる。
自分自身がやりたいこと、好んでいること、興味のあること。
誰かに言われなくてもやってしまう。それが内発的動機による行動だ。
今回のインセンティブ設計では、社長に、外発的動機のデメリットを話して、本当にチェックリストに「ごみを拾う」と言う項目を記載すべきか、徹底して話し合った。
そうして、記載することはやめた。
その代り、採用の基準を変えた。
評価のチェックシートに記載するのではなく、面接官マニュアルを変えたのだ。
面接官が採用面接をするとき、「うちの店で働いてほしい人はこんな人だ」ということを話してもらうようにした。
それは例えばこういう人だった。
「仲間が疲れていたら、心配してねぎらいの声をかけられる人」
「お客さんから言われたお礼を喜べる人」
そして
「目についたごみを自分から拾える人」
「うちの店で働いているのはそういう人たちです。あなたもその仲間になってくれますか?」
内発的動機は人の善意や可能性を信じる方法だ。
しかし実際のところ、人は善意だけで動かない場合がある。どうしても外発的動機が必要な場合の方が多い。疲れているときは笑顔になれないし、忙しければ目の前の仕事に没頭してしまうからだ。
ただ、外発的動機だけを活用しすぎると、組織の可能性はずいぶんと小さくなる。
そのことを、経営者は忘れてはいけない。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)
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事業計画を作る人は人事マネジメントを勉強した方がいい
ここ半年くらい、仕事で、たくさんの起業計画を確認させていただいた。
社会人がまじめに作るタイプの起業計画で、かなりガチなものだ。
なによりも、お金がちゃんと動いている。
中にはもう動き出しているものもある。
そんなたくさんの起業計画に、どうしても足りないものがあることに気づいた。
それは「人事の視点」だ。
正直私は、人事マネジメントの仕組みをつくりながら、どこかで人事の仕組みを軽んじている部分もあった。
どうこう言っても、お金が優先するよな、とか。
お客さんがいなけりゃ人事も機能しないよな、とか。
そうではない、ということが今回、肌感覚で実感できた。
なぜなら、ほぼすべての起業計画が、人=お金としてとらえていたからだ。
たとえばある計画では、小規模店舗をリーンスタートアップさせ、その成否を見ながら爆発的に拡大していく、というものがあった。
5年目までの収益計画、資金計画が記されている。
店長の年収は550万円で計上され、パートタイマーは8時間フルタイムとして300万円の年収。それらが計画にのぼり、事業拡大の方向が示されていた。
それらを見て、私はすぐにわかった。
半年もたたずに、大幅な修正が必要になる。
そもそも、成功の可能性が極めて低い。
それが最初の実感だ。
その計画のビジネスのシードはとても興味深いものだった。
しかし、明らかにかけているものが二つある。
第一に、働く人に対して求めるモチベーションの方向性だ。
その計画には、モチベーションを高めるための仕組みは、何も用意されていなかった。
多くの事業計画作成の指導では、マーケティングと財務計画を教える。
しかし、働く人に対してのモチベーションマネジメントを教えることはない。
年収さえはらえば、人は何でも言うことを聞くのだろうか。
そもそも、生産性を高めたり、創造性を発揮したりすることは、給与を支払うだけで実現できるのだろうか。
第二に、経年計画で人件費が常に固定的コストとして見られていたことだ。
一度採用した人はいつまでも同じ年収で働いてくれるのだろうか。、
退職した後、新しい人を採用するコストはどれくらいかわかっているだろうか。
そもそも、事業に賛同し参画してくれる人をつくるために、「無料のOJT」が機能するのだろうか。
お金も、お客さんももちろん大事だ。
でも、少なくとも同じくらいに、働いている人は大事だ。
彼ら、彼女らが事業に賛同し、事業に共感し、事業を作り上げていこうとすることなしでは、どんなビジネスも成功しない。
そのために、モチベーションを高める仕組みが必要だ。
選抜して活躍してもらう仕組みが必要だ。
同じ行動をとるための同質性が重要である場面もある。
あるいは、多様性を強調すべき場面もある。
お金と顧客だけで、ビジネスは成功しない。
従業員をどう生かし育て伸ばすかを学んでおいたほうがいい。
人事マネジメントを学んでおいた方がいい。
そのことは、きっと、経営者の力になる。
この本にも、そんなことが書かれている。
How Google Works (ハウ・グーグル・ワークス) ―私たちの働き方とマネジメント
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平康慶浩(ひらやすよしひろ)
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