あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

まじめな話と、雑感(よしなしごと)とがまじっているので、 カテゴリー別に読んでいただいた方が良いかもしれません。 検索エンジンから来られた方で、目当ての記事が見当たらない場合 左下の検索窓をご活用ください。

「落ちているごみを拾える人」をどう育てるのか

お店を出しているあるクライアント先で、アルバイトの評価の仕組みを設計した。

そのとき議論になったのが「落ちているごみを拾えるかどうか」だった。

 

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組織の中で使う評価の仕組みを作っていると、評価されなければ人は何もしないんじゃないか、と錯覚してしまうことがある。

刺激、と言う意味のインセンティブ設計では、評価と組み合わせてさまざまな仕掛けを用意する。

代表的なものはもちろんお金だ。

評価されたらお金がもらえる。

逆に、評価されなければお金がもらえない、という仕組みだってある。

 

人には承認欲求があるので、評価するだけでインセンティブになることもある。

故事成句にあるように、人は自分を認めてくれる人のために頑張ることができるからだ。

ただしその場合には、ちゃんと「笑顔」や「言葉」「敬意」などとセットにしてその人に伝えなくてはいけない。

 

評価をインセンティブの仕組みにするとき、他にも、出世が早くなるとか、経費がたくさん使えるようになるとか、表彰されるとか、いろいろな仕掛けを用意する。

 

刺激によってなにかをさせようとするのは、外発的動機だ。

 

社長としては、もちろん店の中にごみが落ちていたら拾ってほしい。

じゃあ、仕事を覚えてもらうためのチェックリストに、「ごみが落ちていたら拾う」という項目をつくるべきだろうか。そうして、チェックがつかなければ評価点数が低くなるようにすべきだろうか。

 

あなたが社長ならどうするだろう?

 

実は、外発的動機で人を動かすことにはデメリットも多い。

特に「評価してお金を増やす(減らす)」とデメリットを生じやすい。

このことについては以前のブログに書いたので、そちらを見てほしい。

成果主義人事が機能しなかった本当の理由 - あしたの人事の話をしよう

評価してお金をあげると、「お金を上げなくなると仕事をしなくなる」という行動を生み出す。

評価してお金を減らすと、「前向きなチャレンジをしなくなる」と言う結果を生み出す。

もちろんそうならないようにいろいろと工夫するのだけれど、外発的動機にデメリットがある、ということを理解せずに設計してしまうと、大きな問題が生じる。

 

チェックリストに「ごみを拾う」と言う項目を増やすと、それは外発的動機となる。

やらなければいけないことであり、やらなければ評価が低くなる。

 

以前に設計したクライアントでは、社長の要望もあって、チェックリストに「ごみを見つけたら拾う」と言う項目を書き入れた。

そうして、アルバイト採用後の研修で、似たような他の項目と合わせて徹底して教えてもらうようにした。

(似たような他の項目とは、「遅刻をしない」とか「身だしなみを整える」とか「挨拶は大きな声でする」というようなものだ)

 

しかし、人は評価されなくても、なにかをすることができる。

それは、内発的動機、という概念で説明できる。

自分自身がやりたいこと、好んでいること、興味のあること。

誰かに言われなくてもやってしまう。それが内発的動機による行動だ。

 

今回のインセンティブ設計では、社長に、外発的動機のデメリットを話して、本当にチェックリストに「ごみを拾う」と言う項目を記載すべきか、徹底して話し合った。

 

そうして、記載することはやめた。

 

その代り、採用の基準を変えた。

評価のチェックシートに記載するのではなく、面接官マニュアルを変えたのだ。

面接官が採用面接をするとき、「うちの店で働いてほしい人はこんな人だ」ということを話してもらうようにした。

それは例えばこういう人だった。

 「仲間が疲れていたら、心配してねぎらいの声をかけられる人」

 「お客さんから言われたお礼を喜べる人」

そして

  「目についたごみを自分から拾える人」  

 

「うちの店で働いているのはそういう人たちです。あなたもその仲間になってくれますか?」

 

 内発的動機は人の善意や可能性を信じる方法だ。

 しかし実際のところ、人は善意だけで動かない場合がある。どうしても外発的動機が必要な場合の方が多い。疲れているときは笑顔になれないし、忙しければ目の前の仕事に没頭してしまうからだ。

 ただ、外発的動機だけを活用しすぎると、組織の可能性はずいぶんと小さくなる。

 そのことを、経営者は忘れてはいけない。

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)

 

 

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