なぜ大企業ほど新卒給与に差をつけられないのか
メルカリが新卒の給与に差をつける、ということが報道された。
ちなみにそのための人事制度は「メルグラッズ」という名前らしい。
多くのニュースでは初任給格差だけがとりあげられているけれど、アスキーの上記の報道を見るともう少し詳しいことがわかる。
要は、新人扱いしない、ということだ。
新人からちゃんと他の社員と同様に、しっかりとした役割を担ってもらう(社内人事制度のグレードに当て込む)ということで、メルカリの新グレードシステム≒メルグラッズ(Mercari Gradesの略?)なのかなぁ、と想像した。
他にも教育支援などを内定段階から与えていくということで、これもやはり新人扱いしない人事制度なのでは、という推測と一致する。
メルカリの制度はある意味で世界的にはあたりまえのもので、ちきりんさんもこんなコメントをツイートしている。
前回(1985年頃)と今回のバブル就活の大きな違いは、前回は給与には格差がなかったこと。前回はどんな優秀な子も同じ給与で一年目をスタートしたけど、今回は中国や韓国企業を含む外資系、ベンチャー企業などで、年収を大幅に上げた新卒採用が始まってる。
— ちきりん (@InsideCHIKIRIN) 2018年3月2日
そしてこうもコメントされている。
新卒の給与を一律に固定せざるを得ない、終身雇用・年功序列型の企業は、「ほんとに優秀な子」は採用できなくなる。ってことでもある。
— ちきりん (@InsideCHIKIRIN) 2018年3月2日
このあたりの事情は確かにその通りで、典型的な日本の大企業は、新卒給与に差をつけることができない。そういう人事制度になっている。
わかりやすく示すと、大企業の人事制度では、グラフのような年齢と給与の分布が生じている。
このグラフで言えば、35才くらいまでは評価によって多少差がつくものの、基本的には右肩上がりで給与が増える。
そこで月給35万円~40万円の谷があって、それを超えると管理職になる。越えられない人は40万円未満のあたりを天井に給与が増えなくなるけれど、残業代は出る。だからまあそこそこの生活はできる。
一方で40万円の谷を越えた人たちは、年令よりも実績とか能力とかで評価される割合が増える。抜擢される人もいれば、万年担当課長もいる。
このよくある構造に対して、もし特別な新卒(年収100万円~150万円アップ)とか超特別な新卒(年収800万円オーバー)とかを雇うとどうなるだろう?
その際の問題を示したのが以下のグラフだ。
実際問題、多くの大企業の新卒採用の現場では、初任給を5000円増やすだけでも様々な課題が生じている。
「去年までの新卒との間の差額が縮まるから23才は3000円、24才は2000円、25才は1000円ベースアップしよう。でもそれにはウン千万円の原資が必要だ」といったように。
仮に特別扱いだから前年度採用者に配慮しない、とした場合にも、課題はある。
ありていに言えば、特別待遇者への社内でのイジメだ。
無視する、嫌味を言う、くらいならマシで、実際の仕事でかかわった際に協力を拒否したり、逆に常に反対意見を示したりする人も多い。
だから新卒一括採用、終身雇用の大企業はダメなのか、というとそうじゃない。
だからこそ僕は、古典的な日本の大企業のための人事改革が必要になるだろう、と見込んでいる。
解決策はもちろんある。
それは人事に客観性を担保していく仕組みだ。
そして評価の納得性や公平性の意味を、しっかりと定めた仕組みだ。
決して報酬だけの仕組みではなく、評価や教育、そして組織構造やレポートラインにまで関わる仕組みだ。
実際にすでに取り組んでいる会社もいくつもある。
今後、成功事例とともに発表していきたいと思う。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)
副業は、市場ではなく相対(あいたい)で得ることを目指す
今週の日経スタイル記事は、副業の選び方。
タイトルにスキルアップ、とあるけれど、どちらかといえば経験の積み方というか、他流試合で経験を手に入れる、みたいなお話だ。
ただ、最後の方に別の視点でも書いている。
副業をどのように見つければよいのか、という話だ。
ちなみに、弊社のインターンの二人に副業についてのレポートをまとめてもらったので、HPのオフィシャルレポート欄にアップした。
内容は1枚で示すとこういうことだ。
で、この続き的な内容が、今回の日経スタイルの記事だ。
それは市場取引と相対取引の関係。
詳細は読んでもらえればよいけれど、その派生から少し書いてみたい。
職をるための労働市場は今、市場取引と相対取引、二つの選択肢がより明確になりはじめている。
ちなみに相対(そうたい)ではなく相対(あいたい)取引だ。
新卒が就職する時点で言えば、人材紹介会社とか会社主催の説明会に登録して、エントリーシートとか書いて面接を受けたりするのが市場取引。
一方で、知り合いのおじさんを通じて「こいつよろしく」なんて感じで入社するのが相対取引。
報酬面で言えば、「弊社の初任年俸は〇〇万円です」という値段が先に示されたうえで、比較されながら選ばれるのが市場取引。
一方、「君には年俸〇〇万円だすからうちに来てほしい」、と個別に値決めされるのが相対取引だ。
市場取引は効率的なのだけれど、売り手にとっては決定的な欠点がある。
比較されて買いたたかれる可能性がある、ということだ。
市場に並べる商品が「モノ」であるのなら、買いたたかれたとしても、それは市場価格なのだから仕方がない、とあきらめがつくだろう。
けれども、労働市場で並べる商品は、あなた自身だ。
あなた自身の意志、能力、経験などを他者と比較されて、場合によっては「これだけでよければうちで働いてみる?」というような値決めをされる。
労働市場で転職しようとする時が典型的だ。
たとえば年を取って転職する時とか、労働市場はとても冷たい。
過去の経験に意味がない、と否定されてしまうことがある。能力はレベルが足りない。そもそも働く意思が低いとまで断定されたりもする。
本業でいきなりそんな風に断言されてしまうと、もう選択肢がなくなってしまう。
自分を買いたたかれたとしても、食べていかなければいけないから。
だからこそ、僕は先に副業で他流試合をしておいた方が良いと思う。
それが前にも書いた、スキルや経験の翻訳、につながるわけだ。
そしてその副業こそ、まず、相対取引で手に入れることを目指してほしい。
方法は一様には言えない。
けれども、あなたを知ってくれていて、あなたの価値を認めてくれる人を増やすことが、少なくともその一歩にはなる。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)