人事評価をAIがする時代:日立のニュースリリースから読み解いてみる
このスマホ画面がなにかわかるだろうか。
※日立のプレスリリースより引用。
http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2016/06/0627.html
ニュースリリースを時系列で読み解くと、興味深いことがわかる。
2006年 日立製作所の中央研究所でウェアラブルセンサーが開発された。
彼らはそのウェラブルセンサー「ビジネス顕微鏡」を使って、人間行動の分析を始めた。
その結果は2014年にこう発表された。
「これまでのべ100万人日以上の行動を計測、その身体活動、位置情報、センサを付けている人どうしの面会などを記録した「ヒューマンビッグデータ」が、人間や社会に普遍的に見られる「法則」や「方程式」を次々と明らかにしている」
データの見えざる手: ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則
- 作者: 矢野和男
- 出版社/メーカー: 草思社
- 発売日: 2014/07/17
- メディア: 単行本
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著者の矢野和男さんは日立の研究開発グループの技師長で、この本はベストセラーになった。
2015年 日立はJALと共同で次のような発表をした。
2015年10月05日 JALと日立がIoTと人工知能を活用して従業員満足度の向上をめざす共同実証実験を開始
そしてそれから半年あまり。
2016年 6月に日立はこんな発表をした。
人工知能を活用し、働く人の幸福感向上に
有効なアドバイスを自動作成する技術を開発
日立グループの営業部門約600名を対象に試行を開始
それが最初にあげた画像だ。
分析の基本は、他社とのつながりを軸としたネットワーク分析と、(おそらく)パソコン端末のログイン状況と連動した行動分析、スケジュール情報などなんだろうと推測する。
日立はこれらの技術を、「働く人の幸福感の向上に有効なアドバイス」のためだとしているが、その過程にはもちろん人事評価もあるだろう。
たしかに、結果と行動との分析ができれば、とても正しい人事考課ができるだろう。
問題はその先にあるので、僕たち人事の専門家はその先を考えていかなければいけない。
たとえば、センサー技術があたりまえに導入されている業界に、タクシー業界がある。
ドライブレコーダーという名目で、運転手の状況や周囲の状況だけでなく、登場した客も動画で撮影してデータを保管している。
このセンサーによって犯罪発生率を下げるとともに、運転手の生産性向上を目指しているが、ドライブレコーダー運用の最大の課題を想像してみてほしい。
それは実は、異常な故障率だ。
ありえない割合で、ドライブレコーダーは故障する。
正確に言えば、故障した、と報告される。そして確かに壊れている。タクシー車内にあるにもかかわらず。
ウェラブルセンサーを用いた人事評価もまた、同じ問題に直面するだろう。
じゃあそれを罰則で厳しく処遇するのか。
あるいは、良い方のインセンティブを増やすのか。
僕は別の方法があると思っているので、今度紹介してみよう。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)
売上を10倍にした人事戦略
僕の人事コンサルタントとしてのキャリアは、今年でだいたい20年になる。
その間、多くのクライアントを支援してきたけれど、中でも特に記憶に残る一社がある。
まだ外資系コンサルティングファームにいた頃。某都銀からの紹介案件がマネジャー会議に持ち込まれた。パートナー(役員)の一人が案件の内容を淡々と紹介した。
「……で、この案件。誰が担当してくれる?」
普通は「誰が担当したい?」とたずねるはずだ。けれどもこの案件についてだけはしてくれる?というたずね方だった。
20人ほどのマネジャーの中でも、人事を担当できるマネジャーは限られている。その数人で顔を見合わせたが、誰も率先して手をあげなかった。
「ちょっと、ねぇ……」
「銀行紹介だから、大丈夫ではあるんでしょうけれど……」
「そもそもなんでうちがこんな会社を見なきゃいけないの?」
そんな言葉が会議を飛び交った。
僕も(なんでこんな業界の会社を?)と思いはした。けれど、良く考えてみれば僕はその業界の事を良く知らなかった。
客としていったこともなかったし、興味すら持っていなかった。
だから手を挙げた。「僕が担当しますよ」と。
パートナーは安心したようにうなずき、案件資料のバインダーを僕の方にすべらせた。
「飲食業W社案件」
議題が次に進む中、資料を開くと、財務データがまず目に入る。
年商は30億円ほど。
正直なところ外資系コンサルティングファームで担当する規模ではない。売上が数十億円程度だと、国内系のコンサルティングファームよりもヒトケタは高いコンサルティング費用を払いきれないからだ。
けれどもこの会社は、保有している現金がとても多かった。そして負債はほとんどない。
損益計算書を見れば、営業利益率がとても高い。銀行向けの資料だから多少の粉飾はあるだろうけれど、それでも飲食業としては異常に高い利益率だ。
財務データの後ろには、出店している店舗の見取り図や内装写真が続いた。きらびやかな写真。そしてそこに写る、若くてきらびやかなドレス姿の女性たち。
その会社はキャバクラの会社だった。
それからの半年間。僕はその会社のために文字通り24時間体制で支援を行った。
その会社の経営会議は深夜の2時からとか、明け方の5時から行われたりしたからだ。
酔客であふれた店のすみのテーブルで、高校を中退して水商売の世界に入った店長や、10代のシングルマザーのコンパニオンなどから現状の課題を聞き出した。
3人の部下をひきつれ、夜8時の開店から明け方4時過ぎの閉店までの間、それぞれ担当店舗を分けて、店の前で客に挨拶をし続けることもあった。
そうして調査して、分析して、議論して、導き出した対応策は、人事戦略を作り上げることだった。
まず人事戦略をつくりあげ、戦略を実現するための制度をつくり、制度を運用するための組織をつくり、組織を動かすための仕事の進め方を定めた。
勘で進めていた経営を、数値に基づく経営におおきく転換させたのだ。
怒涛の半年が過ぎてから2年後、夜遅くに僕の携帯が鳴った。まだ残っていた登録名は、その会社の経営幹部のものだった(彼はのちにオーナー社長の後を継いで社長になる)。
「順調に売り上げが伸び続けていて、仕組みの改定が追いつかないんです。もう一度、入ってもらえませんか?」
そうして久しぶりのその会社を訪れることになった。
2年の間に売り上げは100億円を超えていた。
「300億円を目指したいと思ってます」
オーナー社長と、彼をとりまく経営幹部たちの姿を見て、「やりましょうか」とだけ答えた。
300億円を達成したのは、それから3年後だった。
その間にはいろいろあったけれど、人事の力で大きく会社を伸ばすことができた実績は、コンサルタントとしての僕にとっても大きな自信になった。
どんな業界であったとしても、人事戦略が、人を伸ばし、事業を伸ばし、会社を伸ばすことを実感できたからだ。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)