OJTで部下を育てることは4つのことを思い出させること
部下に職務を与え、伸ばそうとすることはすべての管理職の役割だ。
昨日書いた記事でも少し言及したけれど、
部下育成は管理職にとって「心地よい習慣」になる。
特別に意識せずともできるようになる。それが部下の育成という職務だ。
ルーチン業務についてやらされ感を感じている部下に対しては、それが心地よい習慣になるように、働きかける。
目の前の多種多様な仕事に追われている部下に対しては、仕事の全体像を知らしめ、挑戦的な企てとして意欲を高める。
今回の記事では、そうして高まっていく部下の資質について、ゴールとなる指針を示そう。
前回に引き続き、Parrish&Wilsonの提言から、セレクションアンドバリエーションとしてビジネスに意訳してみる内容だ。
その指針は4つある。誰もが持っている4つのことを思い出させればよい。
第一の指針:意志を持つことを思い出させる(Intent)
誰でもビジネスパーソンとしての最初の時には、意思を持っている。自分の将来を考え、なりたい理想像を描き、力を発揮したい職務を考える。
しかし現実のビジネスの世界に入ると、他人からの働きかけで動くことが多くなる。もちろんあなたの指示通りに動かす場合も同様だ。それが教育的指導であろうとも。
そうして多くの人は、日々の習慣に埋没することになる。
上司である経営者、管理職は、そんな部下たちに、自分自身の「意志」を思い出させなければいけない。
・なぜ働いているのか。
・何のためにその仕事をするのか
前回記事で示した①→③、②→④の職務の改革は、意志を思いださせることに向いている。
無意識に経験した職務と、意志をもって経験した職務では、経験の質が大きく異なる。同じ経験をするのなら、そこに意志の存在があることを思い出させなくてはいけない。
第二の指針:そこにいることを思い出させる(Presence)
もし意志を持てない部下がいたら、どうすべきか。
その時には、ひとりではない、ということを思い出させなくてはいけない。
まず、自分自身がそこにいる。そして上司であるあなたもそこにいる。同僚やその他の人々もそこにいるだろう。
いる=存在するということは、影響を与えるということだ。自分が望むと望まざるとに関わらず、人は他人に影響を与えている。
自分自身がそこにいる、というあたりまえのことを思い出さなくてはいけない。
そうすれば、他人がそこにいる、ということも思い出すことができる。
上司であるあなたは、彼自身の存在を認めるのにもっとも適した位置にある。
単純な方法でそれは実現できる。
・笑顔を向ける
・暖かい声をかける
・相手の話を聞く
第三の指針:受け入れることを思い出させる(Openness)
ビジネスの場面では、常に状況は変化してゆく。今日は昨日と大差なかったとしても、金曜日は月曜日とは異なるだろうし、月末は月初とは異なる。1月と4月は異なるし、繁忙期と閑散期はまた異なるだろう。
変化することは変えられない。だとすれば、そのことを受け入れなければならない。
日々に慣れ親しみ習熟した人ほど、変化しているということを忘れがちになる。
変化していることを、変化していないこととしてとらえるようになってしまう。
何が変わったのかを意識して話してみよう。
そうして、変化したことで、自分たちの職務がなにか変わるのかを話してみよう。
変化を変化として理解し、受け入れることができるようになれば、楽しむことができるようになる。
それは季節の違いを光や音や温度で知ることと似ている。肌寒くなればもう一枚の服を羽織るだろうし、汗ばむようになれば薄手の生地を着るようになる。
僕たちは変化している世界に生きていることを、ビジネスの中でも思い出さなくてはいけない。
第四の指針:信頼することを思い出させる(Trust)
まったく信頼できない人とともにいることはできない。
でも、信頼することなしに、信頼されることもない。
だからまず、上司として、経営者として、管理職として部下を信頼しよう。
「良い結果が生まれることを信頼し、疑念を保留し、辛抱強く、直近の報酬がなくても関与し続けられること(※)」はまず上司にこそ求められる。
「困難な状況に置かれても、好転する可能性を信頼し、期待感を持って精神的・感情的にコミット(※)」する。
「期待通りの結果が得られなかった時には寛容の心で接し、状況が修復できることをも信頼する(※)」こと。
上司であるあなたがそうして接することができれば、部下は人を信頼することを思い出せる。
OJTの中で、職務を通じて人を育てるということは、ただ与える仕事の質を変えればよいわけではない。
職務を通じて部下に接する上司の意識と行動を変えることだ。
それは、上司であるあなた自身にしかできない。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)
※鈴木克明「学習経験の質を左右する要因についてのモデル」より引用
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経験の質は5段階 ⇒職務経験ラダーという考え方
コンサルタントの仕事の一つに、学問的に研究されている内容を現実に適用してみる、いうものがある。
人事コンサルタントの世界にももちろんそれはあって、そもそもは目標管理とかコンピテンシーだってそういった活動の一環だった。
今僕が着目しているのは、硬い言葉でいえば人的資本の積み上げ方法、なのだけれど、ぶっちゃけていえば「ビジネスパーソンがよりよい経験を積むにはどうすればいいのか」というものだ。
これには2つの視点がある。
ひとつは、ビジネスパーソンとしての「自分自身の経験の積み方」だ。
自己啓発書で示される内容などがこのジャンルに入る。多くの自己啓発書に意味がない、という言われ方をするけれど、僕は決してそうは思わない。
ただ、本を読んだだけで行動をしなければ意味がない、ということにはまったく同意するのだけれど。
で、ふたつめ。
こちらの方がより重要だと考えているのが、「経営者としての経験の与え方」だ。
どんな会社でも必ず、経営者の定めたビジネスモデルに沿った形で職務がつくられる。
ビジネスパーソンには、それらの職務を遂行することが求められる。
このとき、職務の与え方によってもっと成長を促せる方法があれば、会社も個人のもっと幸せになるだろう、と考えるからだ。
この点において今着目しているのは、2009年のParrish&Wilsonによる提言だ。
熊本大学大学院の鈴木克明教授による翻訳から、抜粋してみよう(図表類はセレクションアンドバリエーションで作成)。
原本では6段階としているが、1段階目が「無経験」なのであえて5段階とした。
また、ビジネス上の経験、として弊社の判断によるビジネスへの翻訳を行った。
■ ルーチンワークには中長期視点と達成感を与える
ラダーの1段階目、①機械的繰り返しは多くの企業に存在する実務だ。
特にシェアドサービスが行われていれば、多くの業務がここに属する可能性もある。
意図せず①機械的繰り返しになっている業務もある。前任者から引き継いだが、なぜその資料を作っているのかわからない場合などだ。
実際、シェアドサービス検討の際に業務を洗い出すと、全体の5%程度の業務結果は誰にも利用されていない、ということが判明したことすらある。
このように、機械的繰り返しに陥っている業務があるのなら、そこに中長期視点と達成感を与えよう。そうすれば①機械的繰り返しは、③心地よい習慣に変化する。
方法は、管理職からの直接的な働きかけでもよいし、もっと大がかりにするのなら業務全体の洗い替えでも良い。
・なぜその作業を行うのか
・作業の結果どのような貢献があるのか
・半年、1年、その作業を繰り返すと何が生まれるのか
それらをできれば文章化し、担当者に示さなくてはならない。
重要なことは、機械的繰り返しに陥っている業務は、担当者を成長させないだけでなく、組織の生産性すら悪化させてしまう点にある。組織にノウハウを蓄積することもなく、ただ個人の中に単純作業のスキルだけを維持させる。そのスキルは成長することもなく、やらされ感の中でむしろ劣化してゆくだろう。
■ すべての職務において計画と振り返りを実施する
次に、②バラバラな活動を、④挑戦的な企てに変えるように働きかけよう。
そのためには、以下の作業に担当者を巻き込む必要がある。
・複数の職務をつなげた全体像はどうなっているのかを示す
・どのようにその職務を行うのかを議論し定める
・職務の結果について振り返り是非の判断をする
これらは単に全体ミーティングを開けばよいというものではない。
余りにも遠すぎる全体像は、むしろ職務の意義を低下させてしまう。
むしろ小集団(たとえば係や課レベル)での職務検討の場を設けることが望ましい。
また、振り返りと言うと人事評価に反映する、と考えがちだが、これも違う。
上司による承認が最も効果的だ。そして一人一人と職務の結果について話し合うことを心がけなければいけない(これは管理職にとっては③心地よい習慣となる)。
■ 突発事項ほど素晴らしい機会として活用する
最後に⑤美学的経験だが、組織横断型のプロジェクトなどがあたる。
組織横断型のプロジェクトは、往々にして参加者の意欲の低下を招く。一部の担当者だけが熱意を発揮し、他のメンバーはフリーライドしてしまうことも多い。
そうしないためには、プロジェクトリーダーのリーダーシップがもちろん重要だ。
しかしそれだけでなく、個々のメンバーに対して以下の環境を整えよう
・直接的に参画できること
・参画することで職務の修正ができること
・期日が区切られていること
・自分自身に関係していると理解させること
・一貫した職務とすること
重要なことは、職務を通じて人が成長する、ということを理解することだ。
職務によって人を育成することを、On the Job Training(OJT)という。
OJTは、目の前の仕事に習熟させることだけでなく、より本質的な人材の育成につながらなくてはいけない。
そうして、一人一人が成長することで、企業もまた大きく成長できるようになる。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)
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