日本企業がジョブ型に移行するための2つの課題
登壇している経営大学院で「ジョブ型の人事制度は自社にも適用されると思うか」という質問をなげかけてみました。
結果は半々。
大企業に勤めている方が多いということもあるかもしれません。
中でも興味深い意見がありました。
「うちの経営陣はメンバーシップ型です。彼らが経営をしている限り、ジョブ型に適した高度なスキルを持った人材は『傭兵』として雇われるだけではないでしょうか」
確かに経営陣がメンバーシップ型だけなら、ジョブ型人材は便利使いされるだけのような気がします。
とはいえ現在、多くの会社がジョブ型への移行を模索しています。
弊社でも8月に入ってかなりの数のお問い合わせをいただいています。
そこでお答えしているのが、それぞれの会社に適した移行ステップです。
それらを踏まえて整理してみると、日本企業がジョブ型に移行しようとするとき、2つの課題があることがわかりました。
1つ目の課題は、任せる仕事を明確にできるかどうか。
これはシンプルな仕事の明確化だけではありません。
そもそも自社の成長ステージをしっかり把握できているかがとても重要なのです。
たとえば、CFO人材は今やどの会社でも引く手あまたです。
しかしCFOに求める能力は、企業によってかなり異なっています。
税務処理でいっぱいいっぱいの会社だと、まずは管理会計の仕組みを導入し、手を動かしながらシステム化も考えられるCFOが必要です。
IPOを視野に入れている会社だと、資金調達に詳しく、コーポレートガバナンスについて知見のあるCFOが必要です。
今あげた2つのタイプは同じCFOという肩書を持ちますが、スキルや経験は全く異なっています。
特にメンバーシップ型で、社内育成しか経験がない会社の場合、あれもこれもと期待するスキルや経験を広げがちです。しかしそんなスーパーマンがすぐに転職してきてくれるわけもありません。
2つ目の課題は、管理職の給与が安すぎるという点です。
メンバーシップ型の給与水準は、生涯支払う賃金額を視野に入れて設計されていることが大半です。
その際に、管理職になれなかった人との差がつきすぎないこと、や、そもそもその後定年まで雇う必要があるのであまり引き上げられない、といった事情があります。
そのため、社内のあたりまえの管理職年収が、転職者に提示しなければいけない労働市場の金額水準に合わないことが多いのです。
ある会社では、財務部長の年収が800万円でした。その上司になるCFOを探したところ、2000万円以上の年収でなければ来てくれない人材ばかりが紹介されました。
とてもそんな金額を払えない、とあきらめた会社もありますし、そこで弊社に依頼されて、市場水準に即した給与を支払える仕組みを導入した会社もあります。
なぜ多くの日本企業で、生涯支払う賃金額を視野に入れて設計されているかというと、これは労働法が定年を60才以上に定めているからです。
いわゆる終身雇用の責任が企業側にあるので、どうしても年齢に合わせた報酬設計を視野にいれないと機能させづらいのです。
日本を取り巻く内外環境を見る限り、定年の廃止や解雇法制の緩和などをもたらす可能性は低いでしょう。
となると、生涯支払う賃金額を視野に入れながら、労働市場価格にも合わせていくという難題が課せられてきます。
そこで弊社がよく提案するのがハイブリッド型等級制度です。
終身雇用を維持しながらジョブ型を取り入れたいと思われる方は、あらためてお声がけいただければ、とたまには宣伝で締めてみます。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)
ジョブ型への制度移行についての説明ページはこちら。
https://www.sele-vari.co.jp/job_01.html