なぜ経営幹部がいつも不足するのか
■ 十分な経営幹部がいる企業はほとんどない
企業同士の競争に勝つためには、優秀な経営幹部が必要です。
もちろん、資金力や商品力も重要なのですが、結局のところ、最後には人が動かないと何も始まりません。
どれだけ素晴らしい戦略を立てたとしても、従業員がその通りに動いてくれなければ戦略は実現しません。
その従業員一人一人のモチベーションに働きかけ、やるべきことを定めるのは管理職たちです。
その管理職に方向性を示し、育成し、組織として活動させるのが経営幹部に他ならないのです。
しかし残念なことに、十分な経営幹部に恵まれている企業はとても少ないのです。
SMBCコンサルティングで開催した「経営幹部候補の選抜・育成のポイント」セミナーで、以下のような質問を投げかけてみました。
「今、必要な経営幹部が十分にそろっていますか?」
会場を埋めた多くの方々の中で、手を上げられた方は誰もいませんでした。
(そもそも、だからこそセミナーに来られていたとは思うのですが)
■ そもそもどんな経営幹部が必要なのか
そこでもう一つ質問を投げかけてみました。
「では、今どのような経営幹部が必要なのでしょう?」
こちらの質問については、グループディスカッションの形式をとりました。
そうして出てきた意見には次のようなものがありました。
「柔軟な人」
たしかに柔軟性は大事ですね。
「本質を理解して進められる人」
何事も表面だけをなぞっていては改革を進められません。
「会社の状況を理解して具体的に説明できる人」
己(会社の状況)を知ることが全ての始まりです。
さらにそのことを共有できれば、全員がスタート地点に立つことが出来ます。
「年功序列で上がっていった人もいる。それでも、目標を定めて引っ張ってゆける人」
経営幹部に取り立てられた理由は単なる年功だったかもしれません。でもその中に、経営幹部としての資質を持った人がいたのも事実だということでした。
これらの見解をまとめてみると、経営幹部にはいくつもの力が求められることがわかります。
企業を存続させるために、成功し続ける力が必要です。
企業とは人々の集団だからこそ、組織を動かす力が重要です。
それらはいつの時代にも変わらず求められる力です。
さらに現在は大きな変革の時代です。
人工知能は私たちの生活そのものを大きく変化させる可能性に満ちています。
シンギュラリティと呼ばれる、人間を超える人工知能が生まれるタイミングは遅くともあと30年以内にやってくるとも言います。
不要になる仕事が増えてゆき、新しい仕事や働き方が台頭してくれば、企業が提供するサービスもおのずと変わってくるでしょう。
そんな中での経営のかじ取りはどのようにすべきなのでしょうか。
そうして考える時、変革の時代に求められる経営幹部とは、二つの力を持つ人だということがわかります。
■ 変革の時代の経営幹部像
経営幹部に求められる第一の力。それは「本質を見極める力」です。
変革の時代には、表面だけをなぞっていては本当の課題が見えてきません。商品が売れない原因が広告の失敗にある、と考えているだけでは売上は回復しません。
そもそも顧客が求めている機能と商品の機能にずれが生じてしまっているのかもしれません。
それは変化の本質を見極める力によってのみ、気づくことができる課題です。
そして、本質を見極めた後の行動がさらに重要です。
そのため、第二の力が求められます。
変革の時代の経営幹部に求められる第二の力。それは「任せる力」に他なりません。
なぜなら変革の時代はプロフェッショナルの時代だからです。
カリスマ経営者による指導や、精緻な組織マネジメントによる対応だけでは、変革に対応できません。
それぞれの現場でスピーディかつタイムリーに、高度なプロフェッショナリティが発揮されていなくてはならないのです。
そのためには、経営幹部がいつも前に出ていてはいけません。
プロフェッショナルを育てるには任せるしかないのです。
それも、経営幹部自身が直接手掛けたいと思う最重要課題こそ、任せなければ人は育たないのです。
逆説的ですが、新しい時代の経営幹部とは、そうして育った優秀なプロフェッショナルたちに囲まれている人です。
経営幹部はそれらのプロフェッショナル達に、本質から読み取った方向性をビジョンとして示し、動機づけ、活躍させることこそが役割なのです
今あなたの会社に経営幹部が不足しているということは、あなたの会社では、仕事を自分で抱え込んでいるプレイングマネジャーばかりがいて、目の前の課題にばかり対応してしまっているのではないでしょうか。