あしたの人事の話をしよう

人事コンサルタント 平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

まじめな話と、雑感(よしなしごと)とがまじっているので、 カテゴリー別に読んでいただいた方が良いかもしれません。 検索エンジンから来られた方で、目当ての記事が見当たらない場合 左下の検索窓をご活用ください。

適材適所をうみだすターンオーバーマネジメント

アクセンチュアの先輩であり、今仕事でもご一緒させていただいている、舞田竜宣さんの連載記事を読んで、そのわかりやすさに感動しました。
問いかけに対する回答をまとめる形での連載なのですが、賛否両論を併記したうえで結論を導いているので、とても説得力があります。

記事はこちらです。

HRエグゼクティブの羅針盤(労政時報)
http://www.rosei.jp/jinjour/list/series.php?ss=3078

特に2013年10月8日の最新記事、「第8回 人材流動化は日本を強くするか」はとてもいい記事です。
ぜひご一読ください。


■ 7%の重要性

この記事では特に、「マジック・ナンバー・オブ・セブン」と言うキーワードが興味深いです。
つまり毎年7%前後の自発的離職率を維持することが、企業にとっての最適な新陳代謝を実現するのでは、と言う考察です。
舞田さんの記事ではこれをターンオーバー・コントロールと定義されていますが、ここでは「ターンオーバー・マネジメント」と言いかえてみます。
転職管理と訳されたりしますが、実はターンオーバーとはもともと生物学の用語です。

生物学におけるターンオーバーとは、生物の体のバランスを保つための細胞の新陳代謝のことです。
単純に企業組織に置き換えると、古くなった人を新しい人に入れ替える、ということになります。単に退職してもらう、というわけではなく、次の働き先を探してからやめてもらう、と言う取り組みも数多くなされています。


■ 企業の中でのターンオーバーマネジメント

ではこのターンオーバーマネジメントですが、企業で機能させるにはどうすればいいでしょうか。
まずどんな人をターンオーバーの候補とするかが問題となってきます。

細胞なら古いものです。
でも企業で働く人については、単純にそうも言えません。それに古い人に出て行ってもらうだけであれば、それは定年制の導入でしかありません。仮に22歳~65歳まで従業員が均等に並んでいるとすれば、定年退職者だけでは約2%しか新陳代謝できないことになります。
あと5%分のマネジメントはどうすればいいのでしょう

例えば「古い」と書きましたが、これだけではしっくりきません。
細胞として考えても、単純に古くなった、というよりは、機能しづらくなったから淘汰される、と考えた方がよさそうです。
となると、個別の能力や意識も重要です。
70歳を超えてもなお活躍される方もいらっしゃいますし、20代でもやる気がない人もいます。
また、全体にとって良くない行動をとられてしまっても問題です。
心臓を構成する細胞が、いきなり「俺は脳になるんだ!」と行動しだしたらとんでもないことになります。
企業として考えてみると、生産性や行動の方向性等からマッチしなくなっている人に出て行ってもらって、新しい可能性になる人を採用する、ということになるでしょうか。

また生産性についても単純に考えることはできません。
なぜなら、生産性は向上する可能性があるからです。
教育体制を整備するだけでなく、仕事と求める専門性を明らかにすることも必要でしょう。
その上で、どの5%に出て行ってもらうかを考えることが重要になります。


■ 5%はどこにいるのか


「平社員」「係長級」「課長級」「部長級」「役員級」の5段階の階層があるとします。
それぞれの階層から一律で5%に退出してもらうことは果たして適切でしょうか。
私個人としては、各階層から5%ずつの退出を考えることはわかりやすいのでアリだと考えています。ただし、その基準は違うでしょう。

この5段階の階層を仮に以下のように再定義してみましょう。

「役員級」:経営陣の一員としての活躍が期待される人たち
「部長級」:まとまった一部門全体を統括して組織として活躍させることを期待される人たち
「課長級」:部門の中の一組織を統括して活躍させることを期待される人たち
「係長級」:決まった分野や専門性を軸としての活躍を期待される人たち
「平社員」:係長以上に成長することを期待される人たち


こうして定義してみると、5%を探す基準がそれぞれの階層で異なることが見えてきます。
仮にこんな基準をあてはめてみましょう。

「役員級」:結果を出せなかった人・時流に合わない
「部長級」:結果を出せなかった人・組織を統括できなかった人
「課長級」:組織を統括できなかった人・結果を出せなかった人
「係長級」:分野に合わない人・専門性が育たない人
「平社員」:成長の可能性が低い人

2種類の基準を書いている場合、前に書いた基準の方が重要な基準として考えてみました。
この基準が必ずしも正しいわけではありませんが、少なくとも同じ基準で測ることはできなさそうだ、ということは見えてきます。


■ まず入れ替えとして考えてみる

こうして、それぞれの階層の人数を10人・20人・40人・80人・120人(合計270人の会社)として考えてみます。
するとこうなります。

「役員級」:結果を出せなかった人・時流に合わない人について、2年に1人のペースで入れ替える。
「部長級」:結果を出せなかった人・組織を統括できなかった人について、毎年1人入れ替える
「課長級」:組織を統括できなかった人・結果を出せなかった人について、毎年2人入れ替える
「係長級」:分野に合わない人・専門性が育たない人について、毎年4人入れ替える
「平社員」:成長の可能性が低い人について、毎年6人入れ替える

ここではいきなり退出ではなく、入れ替えとして記してみました。
クビ、だと厳しそうですが、役員や部長をはずれてもらう、ということならしっくりきます。
わが社は毎年5%の割合で、それぞれの仕事に期待する基準に基づいて、役職や仕事の入れ替えを行いますよ、というメッセージなら出しやすいのではないでしょうか。


■ ターンオーバーマネジメントを受け入れられる社風をつくる

日本では社内労働市場活用が前提となっているために、社外労働市場の整備が進んでいない、と言う指摘があります。労働法の問題もあり、ある仕事にマッチしない人がいても、外に出すのではなく社内の別の仕事をさせてみなければいけない、という判例もあったりします。
だからターンオーバーマネジメントについて、上記のように、どのような基準で誰を退出させるか、ということを議論すると感情的な反発が生じたりします。その結果、逆に、「だから古い企業はダメなんだ!」という意見も出てきて、反発が対立を生んだりします。

最も重要なことは、それぞれの人にとって最高のパフォーマンスを出せる環境をそれぞれに与えることです。それが適材適所、ということになるわけです。
適材適所のためには、結果を出せなかったり、成長が遅い人を外さなければいけません。
実際に外した人を外に出すかどうかよりも、「適材適所を実現する」ということはそういうことだ、と社内に周知徹底することが重要です

そうすれば、結果として誰も退出させなくてもすむ状態を生み出せるかもしれないからです。


■ ターンオーバーだけをマネジメントしてはいけない

ターンオーバーマネジメントを考える際に、どうしても「入れ替える」「退出させる」という方を意識してしまいますが、それだけでは機能しません。
目的が適材適所であることを思い出してみましょう。
適材適所のためには、「今結果を出している人にやめられないようにする」ことも大事なわけです。
それをリテンションマネジメントと言ったりしますが、会社にとって必要な人材をひきつけるための仕組みをつくることです。

リテンションのためには報酬格差ももちろんですが、その他の特別扱いの仕組み、なども場合によっては必要になります。
その格差や特別扱いについて、社内でねたみや嫉妬が出る状態だともちろんリテンションは機能しません。
格差や特別扱いがあっても、「自分もそうなりたい」と思わせる仕組みがリテンションマネジメントの本質となります。

今回ご紹介している舞田さんが2001年に「A&R優秀人材の囲い込み戦略」という本を上梓されていますが、その内容も非常に参考になります。
絶版のようですが、中古で1円からありますので、よろしければぜひ。


平康慶浩(ひらやすよしひろ)