ビンゴゲームが意外に従業員満足度に貢献する件
ある会社で、ビンゴゲームを報酬にリンクさせてみたら、なぜか離職率が下がった。
その会社では、もちろん評価制度はちゃんと運用していた。
ルーチン業務をしている人に対してはチェックリスト形式。
企画系業務をしている人に対しては、目標管理制度。
そして全員に対して、行動を確認するためのコンピテンシー評価。
これらを勘案して、昇給や賞与にも反映してきた。
でも、一定水準より離職率が下がらなかった。
もちろんある程度の離職率は健全だ。
離職率ゼロ%の会社はいい会社なんかじゃない。
動脈硬化一歩手前の不健全状態だからだ。
せめて2~3%の離職率があった方がよほど健全だ。
しかしその会社ではそれよりも離職率が高かった。
辞めるという人に、人事が話を聞いても本当のことは聞けない。
だから辞めてほしくない人に限定して、僕が何人かの話を聞いてみた。
そうしてわかったことは、評価と報酬の関係に納得がいかない、というものだった。
評価に公平性がない。
上司の好き嫌いが反映されすぎている。
結果として、「自分はできているのに給与が低い」「あんな奴の給与と同じなんて耐えられない」という意見があった。
「出来ない連中がぐちぐち言い過ぎる」「ねたまれるのに疲れた」と言う意見もあった。
だからせめて、自分と同じレベルの会社にランクアップ転職します、という意見などがあった。
彼らが正しいのか、勘違いしているのかは定かではないが、辞めてほしくなかった人財であることは確かだ。
そこで、評価者間の公正性を保つためのさまざまな改革をした。
それらはもちろん効果を発揮したのだけれど、やってみた改革の中に変な取り組みがある。それがビンゴゲームだ。
ビンゴゲームというと、忘年会などで行われるものと考えるかもしれない。
最初に数字がそろった人から景品をもらえる。
でもこの会社では、業績賞与の一部をビンゴゲームで支払うようにしたのだ。
評価も何も関係なく。
最高額は20万円。
次が10万円、5万円、2万円、1万円、と続く。
20万円は3人で、10万円は10人、5万円は20人、といった具合にした。
(金額と人数については本当のことは書けないので、イメージだ)
そうして、業績報告のための全社集会で、ビンゴゲームをした。
盛り上がり方はすごかった。
もらえた人は喜んだし、もらえなかった人も、残念がったが、それほど悔しそうではなかった。
ビンゴゲームを2回、つまり1年が経ったころから離職率が下がったことがわかった。
ビンゴゲームを4回やったあたりからそれは確実なものになった。
もちろんビンゴゲームだけが理由ではないだろう。
でも、評価に対する不満が、偶然と言う名の公平さで和らぐのかもしれない、という実感はできた。
今でもその会社ではビンゴゲームをしている。
註:どの会社?と問い合わせをいただいても、答えられませんのであしからず。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)
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「落ちているごみを拾える人」をどう育てるのか
お店を出しているあるクライアント先で、アルバイトの評価の仕組みを設計した。
そのとき議論になったのが「落ちているごみを拾えるかどうか」だった。
組織の中で使う評価の仕組みを作っていると、評価されなければ人は何もしないんじゃないか、と錯覚してしまうことがある。
刺激、と言う意味のインセンティブ設計では、評価と組み合わせてさまざまな仕掛けを用意する。
代表的なものはもちろんお金だ。
評価されたらお金がもらえる。
逆に、評価されなければお金がもらえない、という仕組みだってある。
人には承認欲求があるので、評価するだけでインセンティブになることもある。
故事成句にあるように、人は自分を認めてくれる人のために頑張ることができるからだ。
ただしその場合には、ちゃんと「笑顔」や「言葉」「敬意」などとセットにしてその人に伝えなくてはいけない。
評価をインセンティブの仕組みにするとき、他にも、出世が早くなるとか、経費がたくさん使えるようになるとか、表彰されるとか、いろいろな仕掛けを用意する。
刺激によってなにかをさせようとするのは、外発的動機だ。
社長としては、もちろん店の中にごみが落ちていたら拾ってほしい。
じゃあ、仕事を覚えてもらうためのチェックリストに、「ごみが落ちていたら拾う」という項目をつくるべきだろうか。そうして、チェックがつかなければ評価点数が低くなるようにすべきだろうか。
あなたが社長ならどうするだろう?
実は、外発的動機で人を動かすことにはデメリットも多い。
特に「評価してお金を増やす(減らす)」とデメリットを生じやすい。
このことについては以前のブログに書いたので、そちらを見てほしい。
評価してお金をあげると、「お金を上げなくなると仕事をしなくなる」という行動を生み出す。
評価してお金を減らすと、「前向きなチャレンジをしなくなる」と言う結果を生み出す。
もちろんそうならないようにいろいろと工夫するのだけれど、外発的動機にデメリットがある、ということを理解せずに設計してしまうと、大きな問題が生じる。
チェックリストに「ごみを拾う」と言う項目を増やすと、それは外発的動機となる。
やらなければいけないことであり、やらなければ評価が低くなる。
以前に設計したクライアントでは、社長の要望もあって、チェックリストに「ごみを見つけたら拾う」と言う項目を書き入れた。
そうして、アルバイト採用後の研修で、似たような他の項目と合わせて徹底して教えてもらうようにした。
(似たような他の項目とは、「遅刻をしない」とか「身だしなみを整える」とか「挨拶は大きな声でする」というようなものだ)
しかし、人は評価されなくても、なにかをすることができる。
それは、内発的動機、という概念で説明できる。
自分自身がやりたいこと、好んでいること、興味のあること。
誰かに言われなくてもやってしまう。それが内発的動機による行動だ。
今回のインセンティブ設計では、社長に、外発的動機のデメリットを話して、本当にチェックリストに「ごみを拾う」と言う項目を記載すべきか、徹底して話し合った。
そうして、記載することはやめた。
その代り、採用の基準を変えた。
評価のチェックシートに記載するのではなく、面接官マニュアルを変えたのだ。
面接官が採用面接をするとき、「うちの店で働いてほしい人はこんな人だ」ということを話してもらうようにした。
それは例えばこういう人だった。
「仲間が疲れていたら、心配してねぎらいの声をかけられる人」
「お客さんから言われたお礼を喜べる人」
そして
「目についたごみを自分から拾える人」
「うちの店で働いているのはそういう人たちです。あなたもその仲間になってくれますか?」
内発的動機は人の善意や可能性を信じる方法だ。
しかし実際のところ、人は善意だけで動かない場合がある。どうしても外発的動機が必要な場合の方が多い。疲れているときは笑顔になれないし、忙しければ目の前の仕事に没頭してしまうからだ。
ただ、外発的動機だけを活用しすぎると、組織の可能性はずいぶんと小さくなる。
そのことを、経営者は忘れてはいけない。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)
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