あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

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ソーシャルスキル育成の指針

今日紹介したい論文は、「ソーシャル・スキルの育成」(2012、松本有貴、山崎勝之)というものだ。

 

最初に断っておかないといけないが、この記事の最後にネタばらしをする。

ばらした内容を見て「なるほど」と思う人もいるだろうけれど、「なんだこれは」と怒る人もいるかもしれない。

でも、僕自身が「なるほど」と思えた論文だったので、ぜひ紹介してみたい。

 

原本のままだとビジネスの現場で使いにくいので、あえて僕なりに意訳した部分も多い。

 

要約すると、ソーシャルスキル育成の5段階のステップがある、ということだ。

そしてその5段階を具体的に書いてくれている。

 

それでは紹介しよう。

 

 

■ ソーシャルスキル レベル1「ルールを理解する」

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レベル1ではまず、ビジネスの現場に出たばかりの存在として、ルールや行動の意義を理解することを期待している。

また、相手が存在する、と言うことを理解して、自分の行動が相手にどのような影響を与えるのか、ということを常に意識しようというものだ。

たしかに新卒の中にはこのレベルから教育しなければいけない人も多い。

いや、実はもっと年長の人の中にも、このレベルから再教育が必要な場合すらあるだろう。

 

 

■ ソーシャルスキル レベル2「チームメンバーになる」

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レベル2は、チーム活動の一員となるためのスキルを示している。

重要なことは、ソーシャルスキル、である以上、自分の主張よりも、集団の中で活躍することを重視している点だ。

また、複雑さを増す対人関係において、相手に対応すること、場面ごとのあり様を理解することが求められるレベルでもある。

 

 

■ ソーシャルスキル レベル3「援助者を持つ」

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レベル3では、特定の人との関係性を深めることを重視する。

特に一人で十分な成果が出せない場合において、援助してくれる人を適切に探せるスキルを持とう、と提言している。

たしかに、すべてのビジネス活動は一人では困難だ。自分自身のスキルアップのためにも指導者は必要だし、タイムリーに助言をしてくれる人がいればなおよい。

 

 

■ ソーシャルスキル レベル4「援助者になる」

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レベル4に到達すると、自分から相手を助けられるか、ということを期待する。

レベル3をクリアできていれば、自分を助けてくれる人を複数探せていることになる。だからその上のレベルとなるレベル4では、自分が誰かを助ける人になろう、ということだ。

このスキルはそのまま、リーダーシップの一要因としてもとらえることができるだろう。

 

 

■ ソーシャルスキル レベル5「PDCAを実践する」

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ソーシャルスキルの最後のレベルでは、目標設定から計画、そして実践し振り返ることができるようになることを期待する。

この段階までスキルを高めることができれば、そればビジネスパーソンとして一人前になれている、ということでもある。

 

 

■ ソーシャルスキル まとめ

まとめてみよう。

 

ソーシャルスキルの5段階

レベル1「ルールを理解する」

レベル2「チームメンバーになる」

レベル3「援助者を持つ」

レベル4「援助者になる」

レベル5「PDCAを実践する」

 

この5段階で人材を育成すれば、個人は成長し、チームも強くなるだろう。

 

 

■ ネタばらし

ここまで読んでいただいて、皆さんはどう思われただろう。

なるほど、これはぜひ自分の会社でも使いたい、と思っていただければ幸いだ。

僕自身も、これからの資料の一部に引用しようと思える部分が多い。

 

じゃあ、これの一体どこにネタばらしが必要な要因があるのだろう。

 

論文原本では、実は5段階のレベルにそれぞれ別の基準を設けている。

その基準を以下に記す。

少しだけ、改行してみるので、真相を知りたい人はスクロールしてみてほしい。

 

 

レベル1  ⇒ 小学3年生

レベル2  ⇒ 小学4年生

レベル3  ⇒ 小学5年生

レベル4  ⇒ 小学6年生

レベル5  ⇒ 中学1年生

 

 

原本ではもちろん、ビジネス、なんて単語はない。

対人関係、とか、友人関係、とか、学級のきまり、とかの単語を用いて記されている。それらを僕がビジネスっぽく言い換えてみたのが上記の5つのレベル記述だ。

 

著者の山崎勝之氏は鳴門教育大学の教授で、基礎・臨床系教育部に属されている。

松本有貴氏の詳細は不明だが、山崎氏の研究室の方だろうか。

原本に興味のある方は、以下のリンクを見てみてほしい。

トップ・セルフ,ベース総合教育(構成)上位目標「ソーシャル・スキルの育成」 : 大目標「自立性の育成・対人関係性の育成」を実現するための目標構成-鳴門教育大学リポジトリ

 

 

きっと、ヒトの成長とはうずまきのようなもので、レベルは変われども同じような成長を何度も求められるのだろう。

 

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)

 

 

 

 

 

 

 

OJTで部下を育てることは4つのことを思い出させること

部下に職務を与え、伸ばそうとすることはすべての管理職の役割だ。

 

昨日書いた記事でも少し言及したけれど、


部下育成は管理職にとって「心地よい習慣」になる。

特別に意識せずともできるようになる。それが部下の育成という職務だ。

 

ルーチン業務についてやらされ感を感じている部下に対しては、それが心地よい習慣になるように、働きかける。

目の前の多種多様な仕事に追われている部下に対しては、仕事の全体像を知らしめ、挑戦的な企てとして意欲を高める。

 

今回の記事では、そうして高まっていく部下の資質について、ゴールとなる指針を示そう。

前回に引き続き、Parrish&Wilsonの提言から、セレクションアンドバリエーションとしてビジネスに意訳してみる内容だ。

その指針は4つある。誰もが持っている4つのことを思い出させればよい。

 

 

第一の指針:意志を持つことを思い出させる(Intent)

 誰でもビジネスパーソンとしての最初の時には、意思を持っている。自分の将来を考え、なりたい理想像を描き、力を発揮したい職務を考える。

 しかし現実のビジネスの世界に入ると、他人からの働きかけで動くことが多くなる。もちろんあなたの指示通りに動かす場合も同様だ。それが教育的指導であろうとも。

 そうして多くの人は、日々の習慣に埋没することになる。

 上司である経営者、管理職は、そんな部下たちに、自分自身の「意志」を思い出させなければいけない。

 

 ・なぜ働いているのか。

 ・何のためにその仕事をするのか

 

 前回記事で示した①→③、②→④の職務の改革は、意志を思いださせることに向いている。

 無意識に経験した職務と、意志をもって経験した職務では、経験の質が大きく異なる。同じ経験をするのなら、そこに意志の存在があることを思い出させなくてはいけない。

 

 

第二の指針:そこにいることを思い出させる(Presence)

 もし意志を持てない部下がいたら、どうすべきか。

 その時には、ひとりではない、ということを思い出させなくてはいけない。

 まず、自分自身がそこにいる。そして上司であるあなたもそこにいる。同僚やその他の人々もそこにいるだろう。

 いる=存在するということは、影響を与えるということだ。自分が望むと望まざるとに関わらず、人は他人に影響を与えている。

 自分自身がそこにいる、というあたりまえのことを思い出さなくてはいけない。

 そうすれば、他人がそこにいる、ということも思い出すことができる。

 上司であるあなたは、彼自身の存在を認めるのにもっとも適した位置にある。

 単純な方法でそれは実現できる。

 

 ・笑顔を向ける

 ・暖かい声をかける

 ・相手の話を聞く

 

 

第三の指針:受け入れることを思い出させる(Openness)

 ビジネスの場面では、常に状況は変化してゆく。今日は昨日と大差なかったとしても、金曜日は月曜日とは異なるだろうし、月末は月初とは異なる。1月と4月は異なるし、繁忙期と閑散期はまた異なるだろう。

 変化することは変えられない。だとすれば、そのことを受け入れなければならない。

 日々に慣れ親しみ習熟した人ほど、変化しているということを忘れがちになる。

 変化していることを、変化していないこととしてとらえるようになってしまう。

 何が変わったのかを意識して話してみよう。

 そうして、変化したことで、自分たちの職務がなにか変わるのかを話してみよう。

 変化を変化として理解し、受け入れることができるようになれば、楽しむことができるようになる。

 それは季節の違いを光や音や温度で知ることと似ている。肌寒くなればもう一枚の服を羽織るだろうし、汗ばむようになれば薄手の生地を着るようになる。

 僕たちは変化している世界に生きていることを、ビジネスの中でも思い出さなくてはいけない。

 

 

第四の指針:信頼することを思い出させる(Trust)

 まったく信頼できない人とともにいることはできない。

 でも、信頼することなしに、信頼されることもない。

 だからまず、上司として、経営者として、管理職として部下を信頼しよう。

 「良い結果が生まれることを信頼し、疑念を保留し、辛抱強く、直近の報酬がなくても関与し続けられること(※)」はまず上司にこそ求められる。

 「困難な状況に置かれても、好転する可能性を信頼し、期待感を持って精神的・感情的にコミット(※)」する。

 「期待通りの結果が得られなかった時には寛容の心で接し、状況が修復できることをも信頼する(※)」こと。

 上司であるあなたがそうして接することができれば、部下は人を信頼することを思い出せる。

 

 OJTの中で、職務を通じて人を育てるということは、ただ与える仕事の質を変えればよいわけではない。

 職務を通じて部下に接する上司の意識と行動を変えることだ。

 それは、上司であるあなた自身にしかできない。

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)

 

 

※鈴木克明「学習経験の質を左右する要因についてのモデル」より引用

 

 

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