あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

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通信手段が発達するたびに人は物理的な距離を縮める

2005年頃の話ですが、堺屋太一さんのお話を聞くことが何度かありました。
私は当時早稲田大学大学院ファイナンス研究科に通っていて、堺屋さんの授業を受けていたからなんですが。
その時、なんとなく笑ってしまうんだけれども、なぜそうなんだろう?と考えても理由がよくわからないお話がありました。
こんな話でした。

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1970年代まで通信手段は電話か電報か手紙だけでした。その頃作家たちは、それぞれ思い思いの地域に住んでいました。
1980年代にFAXが普及しはじめました。すると作家たちはこぞって湘南のあたりに住み始めました。
「いまさら地方になんて住んでられないよ」と言う言葉がみんなの口癖になりました。
やがて電子メールが普及してくると、作家たちはみんな港区に住み始めました。
「いまさら港区以外に住んでられないよ」と言う言葉がみんなの口癖になりました。

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当時の堺屋さんの持ちネタの一つだったのか、別の場所でも同じ話を聞きました。
主要出版社が東京にしかない、という話から転じたお話でした。
この話を聞いてみんな笑っていたのですが、個人的には腑に落ちなかったのです。

通信手段が発達して、なぜ物理的な距離を縮めるのだろう?

当時の私はその理由を、差別化にあるのかな、と考えていました。
通信手段が発達するにつれて、情報の伝達・共有そのものは容易化される。
しかしそれだけに競合する他の作家との差別化が難しくなる。
だから、編集者と直接会える機会を増やすために、物理的距離を縮めるのかな、と。

最近、もう一つ理由があるのかも、と考えました。
それは先行者の優位性を維持するためではないか、ということです。
通信手段の発達は、現在の競合作家以外にも多くの隠れた作家を発掘しやすくするのではないか、と言う理由です。
そうした人たちが世の中に出てきやすくなってくると、物理的な近さを確保することによって、先行者優位を維持する必要があるのかな、ということです。

メールで連絡をとるよりも、電話で話す方がわかりあえます。
電話で話すよりも、スカイプで話す方がわかりあえます。
スカイプで話すよりも、直接会った方がわかりあえます。

つながりを維持するということと、つながりを深めるということとのバランスがあるのでしょうか。

ただ、堺屋さんがおっしゃるように、本当に作家さんたちがみんなどんどん都心に住むようになったのか、ということについては裏付けはとれていません。
本当のところはどうなんでしょうね。

 

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)