あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

まじめな話と、雑感(よしなしごと)とがまじっているので、 カテゴリー別に読んでいただいた方が良いかもしれません。 検索エンジンから来られた方で、目当ての記事が見当たらない場合 左下の検索窓をご活用ください。

人事の仕組みと「食事」

平康慶浩(ひらやすよしひろ)です。
「旧い人事の仕組み」を壊して、「新しい人事の仕組み」を作る仕事をしています

人事の仕組みが変わっていく中で、私たちの生活にどんな影響がでているのでしょう。

生活の大きな要素に「食事」があります。

食事に人事の仕組みは関わっているのか?

たとえばこんなデータがあります。
内閣府が公表している「平成22年版食育白書」から抜粋してみました。
http://www8.cao.go.jp/syokuiku/data/whitepaper/2010/book/html/sh01_01_02.html

通勤時間
これは片道の通勤時間と朝食頻度の関係を示したグラフです。
自宅で働いていても朝食をとらない人がいるのはご愛嬌ですが、通勤時間が増えるごとに、朝食を毎日とる人の割合が減っていることがわかります。

通勤時間が長くなると、家を出る時間も早くなる。
そうなると、よっぽど早起きしないと、朝食はとりづらくなるよね、と考えることができます。

でも、「なぜ?」と考えてみましょう。

「なぜ通勤時間が長くなると家を出る時間も早くなるの?」

それは、会社の始業時間が決まっているからですね。
あたりまえですよね。

でも実は、会社の始業時間が決まっていることはあたりまえではありません
会社の始業時間が決まっていない会社だって普通にあります。
とはいえ大半の会社には、たしかに始業時間の定めがあります。

もう一度「なぜ?」と考えてみましょう。

「なぜ会社の始業時間が決まっているの?」

それは、雇用契約がそうなっているからです。
雇用契約に勤務時間が定められているからです。難しく言えば、絶対的記載事項、として法律で定められています。
また、就業時間を決めなさい、と言っている法律がどこまでさかのぼるかと言えば、労働基準法にとどまりません。実は日本国憲法第27条2項にまでさかのぼります。
そこにこう書かれています。

賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。

これらを定めたものが雇用契約の基礎になります。
雇用契約とは、会社で勤務している一人一人と会社とが結んでいる契約のことです。
実は就職とは、雇用契約を結ぶことを言います。
このことはとても本質的で大事な話です。覚えておいてください。

もう一度「なぜ?」と考えてみましょう。

「なぜ雇用契約に勤務時間が定められているの?」

それは法律でそう定められているから。

でも、さらに「なぜ?」と考えてみましょう。

法律の定めがなければ、使用者は労働者を劣悪な条件で働かせる可能性があるから、というのが理由の一つです。
たとえば江戸時代の丁稚奉公では、休日は年に2日のみ。勤務時間の定めもありませんでした。

日本国憲法は1946年に制定されましたが、当時は「労働者とは使用者に使用される者」を言いました。
今もこの定義は変わっていません。
だから、使用者側に制限を加えて、労働者を守るために法律は存在しています。

労働者を守るための法律によって、勤務時間は定められているのです。

これが「旧い人事の仕組み」です。

さて、日本国憲法制定の時から半世紀以上がすぎました。
労働者、として酷使される人もあいかわらず数多く存在するのですが(そのあたりはブラック企業関連の本を読んでみてください)、そうでない職種の方々も増えてきました。
だらだらと会社で時間をつぶしているよりも、短い時間ですばらしい仕事をすることが認められる職種もあります。
逆に、プライベートを含めて24時間常に仕事のことを考えているような職種もあらわれました。クリエイティブな職種の方々なんかそうですね。

そういった、働く時間を定めない方がいい仕事をする職種の人たちのために、「新しい人事の仕組み」が求められるようになりました

フレックスタイム
あるいは
裁量労働制
あるいは
ホワイトカラー・エグゼンプションという法律も検討されたことがありますね。

これらはいずれも「労働時間」に対する制限をなくそうというものです。
ただし日本の法律上、労働法はすべての雇用契約に優先します。
だからフレックスタイムや裁量労働制でいくら自由な雇用契約をうたっても、実態に不満を持った労働者が訴えると裁判では使用者側が負けてしまいます。
だからホワイトカラー・エグゼンプションが法律として検討されたわけですが、反対が多すぎて今は消えています。
「使用者は労働者を酷使する可能性がある。だから法律でそれをしばる」という前提に立つなら、そのしばりをなくすことには賛成は難しい。

でも、実際に、労働時間で測れない職種が増えています。

そこで限界はあるものの、裁量労働制のような「みなし労働時間制」の仕組みを柔軟に活用する企業が増えています。
平成22年の厚生労働省調査では、1000人以上の企業のうち、4社に1社以上(27.4%)がみなし労働時間制を採用しています。
これが今現在の「新しい人事の仕組み」といえるでしょう。

このみなし労働時間制を導入した企業では、朝の出社時間に定めがなくなります。
だから通勤時間が長いとしても、ゆっくり起きたとしても朝食をとる時間ができます。
家族と暮らしている人なら、朝食をとりながら、だんらんを楽しむこともできるかもしれませんね。
「新しい人事の仕組み」はずいぶんと良い仕組みのようにも思えます。

しかし物事には良い側面だけではありません

裁量労働制のような「みなし労働時間制」は「新しい人事の仕組み」ですが、実際問題として、働く時間数そのものが増えてしまう傾向があります

となるとさっきの朝食問題はどうなるのでしょう。
食育白書にはこんなグラフもあります。

勤務時間

1週間の労働時間が増えると、やはり朝食がとられなくなる傾向がある、というものです。
週60時間以上働いている人だと、30%が毎日朝食を食べない(食べられない?)んですね。

「旧い人事の仕組み」のように出勤時間を定めていると、通勤時間が長くなると朝食がとれなくなる。
でも「新しい人事の仕組み」で出勤時間が自由になっても、総合的に働く時間が長くなると、やっぱり朝食がとれなくなる。


なかなか難しいものです。
人事の仕組みの中に食育教育はありません。
でも、健康増進のためにも、もう少ししっかりとした食育教育を、研修の中に用意してもよいかもしれません。「新しい人事の仕組み」の一環として。
食育への関心度と朝食頻度をあらわしたこんなグラフもありますし。

食育関心



平康慶浩
(ひらやすよしひろ)