あしたの人事の話をしよう

人事コンサルタント 平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

まじめな話と、雑感(よしなしごと)とがまじっているので、 カテゴリー別に読んでいただいた方が良いかもしれません。 検索エンジンから来られた方で、目当ての記事が見当たらない場合 左下の検索窓をご活用ください。

なぜ転職はあたりまえになっていないのか(3)

個人にとって、転職はあたりまえではない。
でも転職市場を形成するくらいには転職する人がいる。
だから、会社は「仕事を人に貼りつける」ことが出来ている状態のまま、人材入れ替え可能性を用いた「給与の固定化」という選択が可能になっています。結果として、仕事は忙しくなるのに給与は増えない、ということにもなります。

この状態は、実は個人だけでなく、会社にとっても不幸です。

なぜなら、同じ人材に仕事を任せている限り、そこに効率化が生じにくいからです。
また、抜本的な改善・改革につながるようなイノベーションも起きづらい。
多くのイノベーションは、過去の否定を伴います。その結果、担当者の入れ替えも発生させる。

しかし、自分を不要にするような改革を提案できる人はほとんどいません。

拙著「うっかり一生年収300万円の会社に入ってしまった君へ」では、自分を不要にする提案をすれば君の給与は上がる、と書きましたが、その理由は視点の高さだけでなく、イノベーションの実現でもあるからです。

仕事が人に貼りついている状態では、人の入れ替えも困難です。
その結果、高齢者が行っている業務を、若年層に引き継ぐことも困難にします。

仕事が人に貼りついていると、その仕事を覚えるためには「習熟」するしか方法がなくなります。教育することが難しくなるのです。
教育が難しくなると、一人一人が使える=利益を生み出せる人材になるためには個々の資質に任せることになります。
それには能力や運も関係してきますし、とても時間がかかります。

さらに言えば、教育の効果も引き下げてしまいます。
形になっていない仕事がたくさんある状態で、教育をしたとしてもそれは現場にそぐわない座学と言う評価を受けてしまいます。
結果として多くの企業で、研修には意味がない、という判断をすることになります。

今、そんな状態にあるのならば、企業はどうすべきか。

第一に、仕事=業務をはっきりとさせることです。
そして業務に人をあてはめることです。
そうすることで、人材の成長も早くなるし、単価が高くなった高齢層に任せてきた仕事を若手に渡すこともできるようになります。教育の効果も明らかに高くなります。

企業における業務の明確化は、専門用語では、ジョブ・ディスクリプションの作成、と言い換えられます。
ジョブ・ディスクリプションを作成することで、多くの企業の効率性が向上します。

さらに、このジョブ・ディスクリプションを多くの企業が整備するようになることで、転職が容易化します。

実はこの状態、アメリカの企業の普通の形です。
日本企業とアメリカ企業との利益率の違いの原因がこのあたりにも隠されているわけです。

さて、転職が容易になると、本当に人の入れ替えが活性化して、それに伴い個人の給与が下がるのではないか?という懸念が生じます。

本当に入れ替えが可能な、簡単な仕事では、たしかにそういう傾向が強まる……でしょうか。
そう言う仕事では、もう給与が低くなっている、ということに気づいていますか?
「入れ替えできる」という可能性がすでに給与を低くしてしまっているのです。
だから、転職が本当に容易になることで、逆に給与水準が高くなる可能性があります。
それは、単純作業であってもそれに習熟した人を惹きとめたいニーズが生じるからです。
今は「入れ替えられる」と会社側が言っているにも関わらず、働く側は職場を選べない状況です。それが変わることで、労働力に対する需要と供給のマッチングが発生しはじめます。

また、高度な仕事については、今よりも給与水準が高まります。
典型的には、管理職や専門職の給与水準が高くなります。
だから、成長を志向して努力し続ける人の給与が高くなります。

相対的に成長できなかった人にも、雇用が確保されやすくなります。
給与水準は高くありませんが、少なくとも雇用は円滑に選べるようになります。

ここには書ききれませんが、転職があたりまえになった後、そこにデメリットが生じる可能性もあります。
しかし、「今のままでは会社も従業員も不幸になり」「新しい形を模索しなくてはいけない」とすれば、デメリットを超えて改革をしなければいけない。

第一に、企業における職務定義をはっきりさせる。
第二に、仕事=業務に人を貼りつける状態を実現する。

そうすることで会社も従業員も、今よりハッピーになれるのです。


平康慶浩(ひらやすよしひろ)