あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

まじめな話と、雑感(よしなしごと)とがまじっているので、 カテゴリー別に読んでいただいた方が良いかもしれません。 検索エンジンから来られた方で、目当ての記事が見当たらない場合 左下の検索窓をご活用ください。

なぜ転職はあたりまえになっていないのか(2)

あらためて調べてみると、転職するときには気をつけなさい!、というメッセージが数多く発信されています。
興味深いのは、そういうメッセージを発信している人は、「元」人材紹介会社の人に多い。
営業の現場にいる間に言えなかった思いがこぼれてきているのかな、とも思います。

さて、1990年代以前に比べて転職する人が増えてきたとはいえ、まだまだあたりまえではない、という現状があると整理しました。
では、そのことがどんなデメリットを生むのでしょうか。
メリットを含めて、会社と個人双方について考えてみましょう。

「転職があたりまえでない」ことが会社にもたらす(表面上の)メリット・デメリット
【メリット】   できる人にずっといてもらいやすい
【デメリット】 できない人も雇い続けないといけない

一言で言えば、同じ顔ぶれでずっと働く、ということがメリットにもデメリットにもなります。

同じ顔ぶれで働くことは、「チームワーク」とか「安定感」「安心感」を高める、と考えられます。
しかし一方で、「マンネリ」も生み出したりします。
でも実は、これらは会社にとっての本当のメリット・デメリットではありません。

「転職があたりまえでない」ことが会社にもたらす(本当の)メリット・デメリット
【メリット】   仕事を人に貼りつけることができる
【デメリット】 人件費が硬直化しやすい

思い返してみてください。
あなたの仕事のなかで、あなたのポストに関係のない仕事がありませんか?
例えば、本社から支社にうつったのに、四半期に一度の本社での資料作成は手伝わされるとか。システム部門なのに、前にいた総務部門のちょっとした仕事がある、とか。
管理職なのに、プレイング部分が60%以上占める、とか。

会社にとっての本当のメリット・デメリットはこう言い換えられます。

「固定費としての給与を支払っておけば、出来そうな仕事はなんでもさせることができる」

これが伝統的な日本の「総合職」の、典型的な姿を生み出した原因なわけです。
そしてここから、年功賃金や差が出ない評価が生まれます。
優秀者は周りよりも多くの仕事、よりやりがいのある仕事を任せられることで満足を得ますし、そうでない人も「自分にしかできない仕事」を囲い込むことで居場所を作り出すことができます。

それが個人にとってのメリットにもなり、かつデメリットを生みます。

働く個人にとってのメリット・デメリット
【メリット】   常に活躍の場が与えられる
【デメリット】 人生の選択肢が会社任せになる

このメリットとデメリットを比較すると、会社のタイプによってデメリットが大きくなります。
メリットの方が大きい、と考える人はきっと、会社を信じている人です。あるいは、安定性の高い会社に勤務している人です。
でも、リストラされないという保証はどこにもありません。
年収を一律で20%カットします、と言われてもそれに従うしかない。
それが、転職できない状況での選択肢、です。
会社が本当にあなたを入れ替えるかどうかではなく、入れ替えられたくなければ言うことを聞け、と言える状況がある、ということです。
転職が個人にとってはあたりまえでなくとも、実際に転職市場はあります。
会社側から見れば、中途採用できる市場がある。そこにあらわれる顔ぶれに変わり映えがしなくとも、一企業から見れば十分に多彩な人材がいます。

拙著「うっかり一生年収300万円の会社に入ってしまった君へ」でも書きましたが、会社の中にいる限り、会社のルールに従う必要があります。どうせルールがあるのなら、うまく使いこなす方がいい。
そのための方法は、拙著を読んでいただければいいのですが、ここではもう一歩先の提言を考えます。

と、長くなったので続きは次回。

ただ、この話の流れから「個人がよりよく生きることができる方法」を提言する、と思われるかもしれませんが、違います。

私が提言するのは、会社がもっと成長して利益を出しやすくするための方法、そのための転職市場=労働力市場整備のあり方です。
その結果として、個人もハッピーになれるのですが、個人をハッピーにすることが目的ではない点にご注意ください。


平康慶浩(ひらやすよしひろ)