あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

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課長のままで定年できない仕組みの中でどう生きるか(2)

前回記事はこちらです。

課長のままで定年できない仕組みの中でどう生きるか(1) - あしたの人事の話をしよう



役職定年という仕組みがある、と書きましたが、企業規模によって導入割合が違います。
ごく簡単に言えば、大企業では45%くらい。
企業規模が小さくなると20%くらいにまで低下します。
役職定年という制度そのものは縮小傾向にありますが(10年間で10%低下)、そのかわりに役割給のような、昇給しない仕組みが導入されているので、実体としては「50歳以上になると給与が下がりやすくなる」という傾向には変わりがありません。

役職定年と言う仕組みが生み出された背景には、新卒一括採用、年功序列がありますが、より直接的なきっかけのひとつに、定年年齢の延長があります。長い間日本では55歳定年が当たり前でしたが、これが60歳定年に変わってきました。法的に定まったのは平成10年ですが、このとき、定年を遅らせる代わりに、報酬を下げるという選択が当たり前の様にされたことが背景にあります。

これって、今の65歳定年の議論とすごく似ています。
役職定年の仕組みと同じことが、65歳定年延長に際しても起きようとしています

で、この役職定年の仕組みを入れていても、それから外れる特例者もいたりする中で、役職定年の効果が疑問視される場合があります。
でも、一度入れた仕組みをとりやめることはなかなかありません。
その原因は3つあります。

第一の原因は、現在の40歳~45歳の層がとても多いということ。
バブル世代から団塊ジュニア世代です。
そしてこの年齢層について、給与水準は一定レベルの高さにまであがっています。
だから生産性を考えるにしても、上がってしまった給与水準を分母として考えなくてはいけなくなります。
できればその分母を下げたい=給与水準を下げたい、という思いが企業側には常に生じます。その際に、評価ではなく、年齢で一律で下げることができる「仕組み」があるのに、わざわざそれを手放そうとする決断はとても難しいものです。

第二の原因は、総合職として人材を活用しているということです。
企業内における真の管理職層は、上にあがるほど、投資判断や人事判断を行うようになります。そして日常業務からは外れていく。それよりも大局観や、あるいは社内の人材に対する深い理解などが求められるようになります。
一方で、真の管理職以外については日常業務や、あるいは企画的業務などさまざまなスキル、経験を発揮することが求められます。
しかし、多くの日本企業では、真の管理職以外も役職的には管理職にしています。また、プレイングマネジャーと言う言葉が当たり前に使われるように、そもそも真の管理職がいない会社もあります。
これが総合職としての人材活用ですが、結果として、一部の専門プロフェッショナルを除くと多くの高齢層は、ちょっと伸びた若手と比較しても個別のアウトプットの質が変わらない、ということが生じます。
アウトプットの質が若手(多くの場合給与水準は低い)と変わらないとすれば、せめて給与水準だけでも下げたくなります。

第三の原因は、解雇規制が厳しいということです。
私たちはつい同期間での評価の高低を考えることが多い。しかし企業として見た場合には、たとえ年齢が離れていても、仕事ができる人にその仕事を任せる方がいいわけです。
40歳のAさんよりも、30歳のBさんの方が仕事ができるのならそちらにまかせたい。
しかし、そうしてしまうと40歳のAさんの仕事がなくなってしまう。玉突きで人事異動を考えようとしても、30歳と同レベルの生産性のAさんを欲しがる部署はありません。
しかしそんな異動判断をされたAさんの人事評価結果は、なぜかBやせいぜいB-です。
だから企業はAさんを解雇しよう、とまでは思いません。評価結果がおかしいことはわかっているけれど、解雇規制も厳しいし、「雇ってやってるだけマシ」という発想が企業側に生じます。
そんな時に一律年齢で給与をカットできる仕組みは、とても重宝します。


あなたの会社に役職定年の仕組みがあるとします。
そんなあなたが今40歳~48歳の間にいて、プレイングマネジャーで、評価はBとB-を行ったり来たりだとすれば、確実に役職定年によって給与が下がります。
でもその時にはもう55歳。他に選択肢もないし、だまって言うことを聞かざるを得ません。

会社側があなたの役職をそのままにしておくメリットとデメリットはどういうものでしょう。

メリットの大きなものとしては、今まで任せていた仕事をそのまま続けてもらう限りにおいて、大きな生産性の変動が生じないと予想されることです。
言い換えると、とりあえずまかせておける、ということです。

一方デメリットとしては、中堅・若手が活躍する場(ポスト)が減る、ということです。
その結果、彼らの給与水準を高めることができませんから、彼らのモチベーションは下がります。もし彼らも管理職にすれば、全体としての人件費が膨らむことになり、収益性を圧迫します。

企業によってこのメリットとデメリットの比較結果、取る行動は異なります。
しかし上記のメリットはデメリットを覆すほどのものではありません。
だから、せっかく人件費を下げることができる仕組みがあるのだから、役職定年の仕組みがある企業では、それを活用することになります。


さて、役職定年の仕組みがあることを知っていれば、そのための準備ができます。
役職定年の網から逃れる手段としてはどういうものがあるでしょうか。

それはまた次回。

 

 

セレクションアンドバリエーション株式会社

平康慶浩(ひらやすよしひろ)