あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

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40歳定年、よりは30歳定年、のほうがしっくりくる

2012年の国家戦略フロンティア会議で提言され、その後議論されている「40歳定年制」ですが、ちょっと難しいかも、と思っています。

理由は単純です。
40歳で定年になっても、転職が難しいから
起業ならあり得るかもしれませんが、失敗するかもしれないことにチャレンジするには、リスクが高すぎるかもしれません。

柳川範之さんの著書「日本成長戦略 40歳定年制」も以前拝読しました。
あらためて読み返してみても、いいことたくさん書いておられます。
たとえば「マネジメントは職種だ」というのはまさにその通りで、新卒課長がいてもおかしくないわけです。

でも、「40歳定年」が仕組化され、40歳で放り出されて、非正規雇用を含めた多様な働き方の選択肢、といわれても、多くの人は十分に対応できません。

であればどうするか。
いっそのこと、30歳定年制、が妥当ではないでしょうか。
暴論のように見えますが、現実的にそういう会社はいくつかあります。
明確に定年、というわけではありませんが、30歳手前から35歳にかけて多くの従業員が離職する会社は多々あるわけです。
私がかつて在籍していたアクセンチュアもそうですし、リクルートもそうです。

30歳から35歳であれば、自分自身に蓄積したものや、あるいはこれからの可能性の獲得によって、転職や起業といった選択肢も獲得しやすくなります
いや、むしろ25歳前後よりも多くの選択肢を獲得しやすい状況だといえます。

これが40歳になると、選択肢が収束してゆきます
多くの企業(日本企業に限らず)での昇進昇格に際して、社内での経験蓄積が求められるようになります。
その「社内での経験」は、社内での選択肢を増やしますが社外での選択肢を狭める場合があります
50歳くらいで執行役員や取締役クラスになっていないのであれば、社外で通用する経験よりも、社内での経験のほうがずっと多くなる。それは目に見えない殻のように、人生にこびりついてはがれなくなります。
殻は、自分自身を守るものでもありますが、社内でしか通用しません。社外に出た時には、ただの重しになってしまいます。

30歳定年、という考え方は、就業規則にそのように記す、ということではありません
無理やり30歳で社外に放り出すというわけでもない。
企業の中の取り組みで言えば、キャリア研修、という方法があります。
29歳時点で、これからのキャリアについて考える機会を従業員に与える方法です。
早期希望退職の若年化や、退職後の再入社を認める制度(ワークスアプリケーションで導入されている「カムバック・パス」など)、MBAや各種資格取得のための休職の仕組みなども考えられます。

会社側としては、従業員個人の人生の選択肢を増やしてあげる。
そして個人としては、働き方と人生の設計を自分で考えるようにする。

もちろん、社内でそのまま働き続けられることも選択肢のひとつです。

ちなみに会社側では、このような改革はこれからどんどん進んでいきます。
実際私自身がお手伝いしている会社に対しても、可能な限りこのような考え方をご提示しています。

すると会社も従業員個人も、大きな意識の変革が求められます。
お互いの安心と安定とのバランスをどうとるか。会社と個人それぞれに生まれる「不安」が課題として明確になりますが、それらをどう解決するかについては、また別の機会に。


 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)