年収300万以下の人が増え続けていることについて
2012年末に「うっかり一生年収300万円の会社に入ってしまった君へ」と言う本を東洋経済新報社から上梓した。
年収300万以下で働く人たちが50%近くにまで増えているということや、毎年の平均昇給額が5000円もない状況(1990年代までは1万円くらいはあった)を踏まえて、「コストとしてコントロールされるようになった給与」の仕組みを人事制度の観点から解き明かした本だ。
給与を決める人事制度を理解すれば、もっと給与を増やす働き方ができる。
そんな事実を大勢の人に知ってほしい。
そう考えて本を書いた。
発売後は日経ビジネスや日経ウーマン、人事専門誌などの硬めの書評でもとりあげられたし、週刊プレイボーイや週刊SPAのような柔らかめの雑誌でも特集を組まれたりした。
それから2年がたった今年に入って、KINDLE版が全書籍中1位を獲得することもあり、現状はどうなっているんだろう、と言うことを考えて分析してみた。
■10年間で年収は40万円(10%)下がった
僕が本を出した時、分析に使った最新データ(国税庁)は2010年のものだった。
平均年収412万円。
それが2012年データだと、408万円に減っている。
もちろんデフレが進んでいたとかの事情もあるし、アベノミクスにより改善結果がわかるのは来年の統計になるだろう。だから本当に直近のデータでは改善しているかもしれない。
ただ、2002年には448万円、2007年でも平均で437万円はあったのだ。
この10年間で、平均年収が40万円下がっている、と考えてみたらどうだろうか。
これは大体10%下がった、ということだ。
本の中にも書いたけれど、一人一人の年収が10%下がったわけじゃない。一人一人で見れば、10年前よりも給与は増えている可能性が高い。
ただ、10年前に同じ仕事をしている人がもらっていた給与よりも、今その仕事をしている人の方が、年収が10%下がっている、ということだ。
この傾向は、男性でも女性でも同じくらいで、日本社会全体としての傾向だ。
■年収300万以下の人は相変わらず増えている
じゃあ全員一律で下がっているのか、といえばそうじゃない。
分析してみると、「年収300万円以下」が増えた結果の影響が大きい。
2010年データでは、かろうじて「年収1500万以上」は増えていた。でも今は激減している。
一番のボリュームゾーンである「年収300万~600万」の層も若干だが減っている。
そして「年収600万~900万」「年収900万~1500万」層も減ったままだ。
(いずれも国税庁データからセレクションアンドバリエーション作成)
■コストであることから抜け出さないと本当にまずい
僕の友人もブログで書いていたけれど、今の日本では、中古のワンルームマンションなら300万円で買えるし、ファストフードは300円以下だし、服を一式そろえても5000円以下だ。衣食住のすべてが安く済んでしまう。
だから年収300万円以下でももちろん生活はできてしまうのだけれど、結果として失われていくのは「教養娯楽費」のような楽しみのための消費や、「将来の安心感」だ。
政府や経済界による対応はもちろん重要だ。
でも、政府がなにかの取り組みをしても、その結果が給与に反映されるのは、ものすごく早くて1年後。企業の人事制度の仕組みから言えば、2年後の月給や賞与に反映されるのがやっとだ。それも新しい法律や取り組みが施行されてから、だから実際にはマスコミで新しい改革が報道されてから、さらに半年くらいの期間がかかる。
だから、本当にひとりひとりが、コストとしての給与を受け取る状況から抜け出すことを考えないとまずい。
ブラック企業をバッシングしたところで、ひとりひとりがもらう給与は変わらないのだ。
今年に入ってからのコンサルティングの依頼の中に、従業員の年収水準をひきあげたい、という要望も複数あった。だから多くの会社で給与水準は増える可能性がないわけじゃない。
でもそれじゃ間に合わないかも知れない。
だって、ひとりひとりは毎年、年をとるのだから。
だからこそ、ひとりひとりがどうすれば自分の給与を増やせるのか、考えて努力しなくちゃいけないと思う。(給与以外の収入を得る方法を考える方が楽なら、それでもいいかもしれない。)
もちろん、年収300万円以下で幸せに暮らせるようにすることも大事だろう。
でも、今どちらかの努力をしなければいけないのなら、どちらがいいだろう?
「年収300万円以下で幸せに暮らすための努力をすること」
「とりあえず目の前の数年間だけでも年収を増やすための努力をすること」
平康慶浩(ひらやすよしひろ)
セレクションアンドバリエーション株式会社