あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

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自分の本のボツ原稿をぼちぼち掲載してみます(3) 転職が年収を減らす現実(1)

転職が年収を減らす、なんてあるのでしょうか。
本の中にも書きましたが、統計的には、三分の一の確率で、転職時に年収が下がります。
このあたりについていろいろと書いていた部分を抜粋してみます。
ちょっと長いので、二回にわけてみます。

あと、元の原稿は縦書きため、数字はほとんど漢数字にしています。
横書きにすると読みづらい点はご容赦ください。

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転職をすると年収が減ります

 給与の天井が昇給額の低下とレンジレートによって生まれた、と書いたが、これからその天井が解消されない理由はまた別にある。
 
 給与に天井が生じた理由には先ほど述べた意図的な理由と、自然発生的なものとがある。
 意図的に発生した給与の天井とは、昇給額が抑えられたことと、給与にレンジレートが導入されたことによって生まれた。
 では、自然発生的に生じた給与の天井とはどういうものか。
 それは転職が当たり前になったことと大きく関係している。

 ある例を見てみよう。

新卒山田太郎の場合
 例えば山田太郎(仮名)くんの場合で見てみよう。
 二〇〇二年四月 四年制大学卒業→大手専門商社A物産入社
 二〇〇四年八月 A物産退社 三か月間転職活動を実施
 二〇〇四年十二月 大手精密機器メーカーB精機入社
 二〇〇八年二月 B精機退社 在職中に転職活動を実施
 二〇〇八年三月 中堅総合商社C商事入社(年俸制
 二〇一〇年四月 係長昇進 現在に至る

 中途採用の履歴書で比較的よく見るタイプの経歴だ。この経歴に給与額を当てはめると次のようになる。
 二〇〇二年四月  月給 二二万円   夏季賞与 一〇万円 冬季賞与 四四万円
 二〇〇三年四月  月給 二二万八千円 夏季賞与 四八万円 冬季賞与 三八万円
 二〇〇四年四月  月給 二三万三千円 夏季賞与 三五万円 (ここまでA物産)
 (ここからB精機)
 二〇〇四年一二月 月給 二四万円   冬季賞与 なし
 二〇〇五年四月  月給 二四万五千円 夏季賞与 五一万円 冬季賞与 五一万円
 二〇〇六年四月  月給 二四万五千円 夏季賞与 五一万円 冬季賞与 五一万円
 二〇〇七年四月  月給 二五万二千円 夏季賞与 三九万円 冬季賞与 六二万円
(ここからC商事)
 二〇〇八年二月  月給 二八万五千円 夏季賞与/冬季賞与 各二八万五千円
 二〇〇九年四月  月給 二八万五千円 夏季賞与/冬季賞与 各二八万五千円
 二〇一〇年四月  月給 三一万五千円 夏季賞与/冬季賞与 各三一万五千円

 一見すると順調な転職キャリアかもしれない。
 月給をグラフにしてみても、転職がうまく昇給につながっている
 

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 しかしこれに残業代を加えてみるとどうだろう。通常許される残業時間は若年層ほど多い。
 また、メーカーによっては組合との三六協定により残業時間を制限していたり、あるいは生産管理の一環としての削減基調が強い。仮にA物産で月二〇時間、B精機で月一〇時間、そして年俸制のC商事では月ゼロ時間としてグラフを作成すると次のようになる。


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 一目見てわかるように、A物産からB精機への転職時には月給は増えるどころか減っていることがわかる。山田くんはA物産が月二〇時間の残業代を支給していることを当然と考えていたが、そうではないことを知ってショックを受けただろう。

 さて、これをさらに賞与を含めた年収ベースで見るとどうなるだろう。一月から一二月までのいわゆる申告所得を年収として計算してみる。するとグラフでは次のようになる。


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 先ほど上げたキャリアの山田くんは、結局この八年間の間、ほとんど年収ベースでは増えていないのだ。そして現在のC商事においては係長の年俸が四四〇万円であることから、彼の年収は恐らく今後数年間横ばいとなるだろう。

 この山田くんのような例、すなわち転職によって増えるはずの給与が減少する理由は三つある。
 私の知る限りの企業はほぼこの三つの考え方を導入しているので、おそらく君の会社にも当てはまることだろう。

(つづく)

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この続きにあげている三つの理由は本には書いていません。
興味のある方は、次回をお楽しみに。


 

 

うっかり一生年収300万円の会社に入ってしまった君へ

うっかり一生年収300万円の会社に入ってしまった君へ

 

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)