あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

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3DプリンターはMacだ

メイカーズという名著に触発されてか、最近3Dプリンターについての報道が目につきます。
Youtubeなどで公開されている3Dプリンターの動画を見ても、たしかにすごい!と感動します。

ただ、これが産業構造を変えるとか、そういう大きな話になるかというと、違うと考えています。
もちろん、萌芽ではあるでしょう。

ただ、私自身は、3Dプリンターは現在、パソコンで言うと、マッキントッシュの段階だと感じています。
だから、マイクロソフトのような企業がWindowsを生み出さない限り、3Dプリンティングという活動そのものがメジャー化しない、と。

理由は三つあると思っています。

第一に、そもそも現在私たちは、あまりモノを買っていません。
最近1週間に、フィギュアやアクセサリー、ちょっとした小物類を買った覚えのある人は、今どれくらいいるでしょう。振り返って過去1ヶ月でもいいです。
だから、現在の3Dプリンターで作れるレベルのものを求める市場が小さいのだから、趣味以上には普及しない、と言う理由です。

第二に、コスト面です。
簡単に3Dプリンターで作れるレベルのものは、100円均一ショップに行けば手に入ります。それも100円で。一方、3Dプリンターでそれをつくるにはもっと多額の費用がかかる。見合わないですね。

第三に、現在市場に出回っているモノそのものが複雑化している。
多くの流通品は、単体として完成されたモノではなく、複合商品です。殆どの商品がアセンブリです。また、多くには電子回路が組み込まれています。残念ながら、現在の3Dプリンターでは、部位に応じた素材の変更までは対応が難しい。だから、モノコック商品の代わりにはなりえても、アセンブリには代わりえない。

マッキントッシュが日本に出回り始めた当時、それは趣味の品でした。
それから、処理能力よりはむしろ、それを使っている人たちのスキルや嗜好を理由として、デザイナー御用達商品となっていきました。

一方、マッキントッシュよりは能力的に劣りはするものの、汎用性の観点からWindows用のマイクロソフト商品が一気に普及しました。

マッキントッシュが汎用品とならず、マイクロソフトWindowsが普及した理由はたった一つだと考えています。

それは、Windowsの方が性能が「悪かった」からです。
そしてその分安かった。だから、多くのPCメーカーがプリインストールで発売しました。
そして世界的に一気に普及しました。

3Dプリンターがもし、「性能を向上させる」方向へと進化するのであれば、それはメジャー化せず、一部の限定された人たちや、あるいはそもそもメイカーズで否定している大規模製造業側に利する結果を生むことでしょう。

それよりもむしろ、乱雑な使用にも耐え、かつ性能の向上を求めずコスト低廉を目指すのであれば、一気に普及すると考えています。
そしてそれを実現するのは、マーケットメイクの発想です。

メイカーズが語るように、製造が個人の手に渡る時代はくるでしょう。
でもそれは、品質とは「関係のない」、別の次元の話だと考えます。

3Dプリンターが庶民に普及する時代として、例えばこんなものを考えます。

〇 女性が今日の髪留めをつくる。
  ショップで買えば300円。一度買ったものを使う回数はせいぜい10回。
  それなら、今日のイメージに合わせたものを、ワンユースで作ってつけている。
  コストはせいぜい50円程度で。

〇 ジップロックをつくる。
  ボタンを押せば、今使いたいサイズのジップロックが5分程度で出来る。
  コストはせいぜい10円程度で。

いずれにせよ、それが人々の手元に渡るときには、3Dプリンターとは言われていないことでしょうが。

 

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)