タレント・マネジメントの本質は人が辞める前提
ご存知の方もいらっしゃいますが、私はセレクションアンドバリエーションの代表以外に、二つの団体の理事もつとめています。
先日12月8日の土曜日に、この協会の会員交流会がありまして、基調講演という名目でいろいろと話してきました。
お題は「人生100年時代のタレント・マネジメント」。
協会の理事長であり、前職の同僚でもあった各務晶久さんが「最近平康さんが出版した本にも『人生100年時代』って入ってたけれどあれは一般の人向けだよね。人事専門家向けだったらこれでいいよね」という、なかば無茶ぶり的に決められたものです。
まあ無茶振りは成長のきっかけですし、50歳を目前にして無茶ぶりされる機会こそまさに成長の機会だろう、と考えて、特に最近のタレント・マネジメントについてのコンサルティング実例などを整理してみました。
そんな中で、やっぱり基調講演なんだからメッセージは短くわかりやすいほうがいいだろう、と考えて、あれこれ悩んだあげく、これにしました。
「タレント・マネジメントは
人が辞める会社でこそ活きる」
ただいきなりそんな話をしても、何言ってんだ、と言われそうだったので、メッセージは逆の言い方から始めました。
逆に言うとこういうことです。
「新卒社員がたくさん入ってきて
その大半が定年退職までずっと勤務している会社では
タレント・マネジメントはあまり意味がない」
もちろん講演なんでちょっと極端に言っています。
意味がない、というのはたぶん言い過ぎ。けれどもあながち間違いではない。
そもそもタレント・マネジメントっていう言葉は、ウォーフォータレントをベースにしています。
ウォーフォータレントってのはマッキンゼーが1997年から提唱しはじめたキーワードで、伸びてる会社は人を大事にして、人をしっかり活躍させているよね、ということを示した考え方です。
ベストセラーになった本にまとまっているので、具体的にはそちらを読んでください。
ウォー・フォー・タレント ― 人材育成競争 (Harvard Business School Press)
- 作者: エド・マイケルズ,ヘレン・ハンドフィールド=ジョーンズ,ベス・アクセルロッド,マッキンゼー・アンド・カンパニー,渡会圭子
- 出版社/メーカー: 翔泳社
- 発売日: 2002/05/18
- メディア: 単行本
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で、大事なことは「人を大事にする」⇒「会社が伸びる」の間にどんなロジックがあるのか、ということです。
そもそも「人を大事にしよう」なんてあたりまえのことを、なぜ世界トップクラスのコンサルティングファームが言い始めたのか、という原因を考えなければいけません。
理由は簡単です。
優秀な人ほど、すぐに辞めてしまうから。
もっと良いキャリアを積めそうな機会があれば、そちらに行ってしまうから。
ちょうどアメリカでそういう人材獲得競争が激化したからこそのウォーフォータレントなわけです。
だから、優秀な人にはトップが分かりやすいメッセージを発信したり、給与面で色を付けたり、育成のために投資したりしなければいけないよね、ということを言っているわけです。
これって今の日本もそうなりつつありますよね。
でももし、新卒で入ってきて他の会社を知らず、別の会社への転職も考えないような人ばかりの会社ではどうでしょう?
そんなことに気を使わなくても、我慢させておけるわけです。
いつか報いてやるから、って。
それを信じてみんな60歳とか65歳まで我慢してくれる会社には、タレント・マネジメントの仕組みは機能しません。
タレント・マネジメントは、
人が辞めてしまう会社でこそ
考えなければいけないのです。
そしてそのための取り組みは、タレント・マネジメントでよく言うところの人材の「可視化」や適材適所としての「配置」「育成」だけじゃだめなんです。
プラスアルファとして必要なことは優秀な人たちの「エンゲージメント」を高めること。
人材を「可視化」して活躍のために「配置」して「育成」することは、企業にとって当然のことです。
それに加えて、会社の方向性に共感してくれるように取り組むこと。
一人一人がモチベーションを高く保つだけでなく、周囲の人たちにも良い影響を与えてくれること。
そして仮に会社を離れたとしても、ずっと会社のファンで居てくれること。
やがてタイミングがあえば戻ってくれること。
従業員をそんな状態にまで引き上げることこそがエンゲージメントの向上です。
セミナーでもそんなお話をしました。
このあたりのロジックについては何も私が最初に言い出したわけではなく、エンゲージメント向上のためのHRテック系のサービスが増えていることからもわかります。
WEVOXとか。
うちはHRテックの会社ではないので、可視化されたエンゲージメントに対して、どのような「仕組み」を「運用」すればよいのか、というところの設計と運用の支援を多くの会社に対して行っています。
評価制度とか報酬制度の改革も、従業員に活躍してもらって、成果を生み出すためのものです。
だからこそ、活躍を促す行動であり、意識にアプローチするものでなくてはなりません。
そのあたりの事例も含め、もう少し長めのセミナーにまとめてみたいと思うので、その際にはあらためて告知させていただきます。
お楽しみに。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)
2019年1月から2月にかけて人事制度改定の3時間セミナーを開催します。
東京・大阪・福岡で実施するのでぜひご参加ください。