あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

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「金塊ロジック」で「景気が良くなる方法」を考えてみた(2)

前回の続きです。
http://hirayasu.hatenablog.com/entry/2013/10/05/221558

景気≒実質GDPだとして、景気を良くする≒実質GDPを増やす方法を考えてみます。

消費が増えるか
投資が増えるか
政府(通貨を発行している主体)からの支出が増えるか
貿易で黒字になるか

すればGDPは増えるわけです。

さて、ここで「金塊ロジック」で考えてみます。
金塊ロジックの説明はこちら。
http://hirayasu.hatenablog.com/entry/2013/10/04/092434

【金塊ロジックの仮定】
● あなたは金鉱を所有して、通貨「G」を発行している。
● あなたの通貨「G」は1g1000円で、あなたが持っている金と交換できる。
● 金鉱のそばの「金鉱町」では、あなたが発行している「G」で多くの人が生活している。

さて、あなたが「金鉱町」の景気を良くしたい、と思ったらどうすればいいでしょうか。

簡単なことは、あなたがGをたくさん発行することです。
そうすれば、手にしたGを使う人が増えます。
金鉱町でGを発行する方法は、基本的にはひとつです。
それは、金鉱で働いている人たちへの給与や、その他の支払いをGで行うことです。

これが政府支出です。

その他の支払には、例えば掘削機械の購入費用や、光熱費などが考えられます。

でも、Gを発行するには、金の裏付けが必要です。
そのためには、もっと金を掘り続けなければいけません。
逆に言えば、金が増えるほど、金鉱町の景気は良くなります。

また、あなたは、金が減らないように心掛けなくてはいけません。
もし金が減ってしまうと、発行しているGの交換額を1000円から950円とかに減額しなければいけないかもしれません。
そうなったら、Gの信用が低下してしまいます。
誰もGを受け取らなくなったら、その時点で金鉱町は破たんしてしまうかもしれません。

金鉱労働者への給与はGで支払えたとしても、掘削機械や光熱費は、Gではまかなえません。

どうすればいいでしょう?

例えば、金鉱町に火力発電所をつくるのはどうでしょう。
また、町を流れる川から水道を引くことも考えられます。
金鉱労働者の一部を教育して、独自の掘削機械を開発させることもいいでしょう。

これが政府投資です。

最初に投資として一部の金を流出させますが、そのあとは外に支払う金を減らすことができます。

もしこの投資をそもそも借金でできたらどうでしょう?
あるいは無償でもらえるとしたら?
ODA、後進国に対する政府開発援助はそんな位置づけのものでもあります。

外に対して支払う金(きん)を減らすことができれば、金(きん)を掘った分だけ、金鉱町の中でGをたくさん流通させることができます。
Gがたくさん流通するとどうなるでしょう。
例えば、今まで毎月200Gを受け取っていた金鉱労働者が250Gを受け取るようになると、50G分だけぜいたくな生活をするかもしれません。
食事の量や質をあげるかもしれません。
お酒の量を増やしたりもするかも。
広い家に住んだり、服をたくさん買ったりもするかもしれません。

そうして、消費が増えます
増えた消費は、その対価としてGを受け取った人によって、さらに次の消費につながります。

さて、あなたが作った火力発電所の電気を、隣町でも使いたい、と考えるかもしれません。
あるいは、鉱山技術者が作った新型の掘削機械を、遠い街の別の鉱山でも使いたいと思うかもしれません。
あなたは電気を売ったり、掘削機械を売ったりして、その対価を得ます。
相手はGを持っていないので、あなたは、金(きん)かそれに代わる何かを対価で受け取ります。
それはそのまま、Gの裏付けとなる資産になります。

これが貿易黒字です。

これらを整理すると以下のようになります。

① 投資によって、Gが流通するエリア内で消費を完成するようにする
  ⇒Gでなんでも買えるようにする。金(きん)が減らないようにする。
② ひとりひとりが受け取るGの量を増やしてひとりひとりが使うGの量を増やす
  ⇒直接渡すGの量を増やす。
③ 地域外から金(きん)やそれに代わる何かを受け取るようにする
  ⇒地域外の人たちが欲しがるものをつくる。

こうして金鉱町の景気はどんどん良くなります。

その成長の度合いは、当初は、発掘される金の増え方にあわせたものになります。

しかし、投資が進んでさまざまなものが金鉱町以外で買ってもらえるになると、そこでの貿易黒字の分だけ、さらに景気はよくなります

実質GDPが増えてゆきます。

「金塊ロジック」の世界だと、景気の動きはこうなります。

さて、これは兌換通貨の世界ですが、管理通貨だとどうなるのでしょう。

前回書いたように、管理通貨の世界では、発行している通貨の量は、外貨保有高の10倍にもなっています。
じゃあ、何を根拠にあらたに通貨を発行しているのか。

その根拠は国の財政状況です。

結論を簡単に言うと

兌換通貨制度のもとでは、これだけの資産があるから、その分だけ通貨を発行します

管理通貨制度のもとでは、今これだけ儲かっているから、将来の期待を含めて通貨を発行します

つまり、国、というものが、資産家から企業に変わっている、ということです。

もちろん資産家状態の国もあります。アラブの原油産出国とかですね。

でも大半の国々は、企業のようになっています。

税金として国民から受け取った金額をもとにして、富の再配分をします。持っている人から持っていない人に配るわけです。社会保障費、とかそうですね。
それ以外には、防衛費用だったり教育費用(将来への投資)だったり、経済効率を高めるために投資をしたり(公共投資というやつです)します。
その差引がプラスの状態だと、この国は伸び代がある、ということになります。

となると、国の財政を良くするためには、収入を増やすことが当然となるでしょう。
もちろん支出を減らすことも大事です。

その結果が景気につながってきます。

国の収入を増やす、と言うことは税金を増やすことです。
そのためには税率を増やせばいいのでしょうか。

おかしいですね?

税率を増やすと、人も企業も消費を控えるようになります。
となると、それ以上に政府投資をしたり、政府支出を増やしたり、貿易収支を高めなければいけません。

となると、税率を増やさずに税金を増やすことを考えるのが一番のようです

「金鉱ロジック」のところで書いた3つの条件を改めて書いてみましょう。

① Gが流通するエリア内で消費を完成
② ひとりひとりが使うGの量を増やす
③ 地域外から金(きん)やそれに代わる何かを受け取る

③を満たしながら①を実現するためには、生活に必要なものはエリア内で完備します。
その上で、海外にもどんどん輸出する。
そうして、②を満たすためにはどうすればいいでしょう。

「金鉱ロジック」だと、金をもっと掘って、その分だけ従業員にGを配ればよかった。
あるいは、あなた自身がGを使ってどんどんものを買ったり、道路をつくったり、建物を建てればよかったわけです。

しかしそれ以上に、根本的に消費が減ってゆく流れがあるとどうなるでしょう

いつまでもいつまでも道路をつくって、建物をたてて、Gをどんどん発行しなくてはいけません。

まさにそれが現在の日本の状況です。

人口が減っているからです。
人口が減ってゆく分だけ、消費がどんどん減ってゆきます
これを、人口オーナスと言います。さらに人口オーナスの状態では、社会保障費などの支出も増えます。
踏んだり蹴ったりですね。

金鉱町の例でいえば、金鉱労働者がどんどん結婚して子供を産んで育てれば、その分だけさらに消費は増えます。
でも高齢者が増えて子供も減ると、いくらGを発行しても、使う量には限りがあります。
また、高齢者は直接Gを受け取れなくなります。そのため、高齢者の生活を守るためには、年金などの手当てが必要になります。

すると景気が悪くなっていく。

一体どうすればいいのでしょう?

答はまた次回に。



平康慶浩(ひらやすよしひろ)