役員を育てる人事機能とは
では人事として,どのように役員を育てる機能を持つのか。
もちろん,人事担当役員や人事部長が役員を教育するという意味ではない。
人事が役員を育てるために持つべき機能は,日々の活動のなかにこそある。
ここで特記したいのは,以下⑴~⑶の3 つだ。
⑴期待で測る採用基準
あなたの会社の採用基準を思い返してみてほしい。さまざまな質問項目があるはずだが,要約すれば,それは「即戦力として役に立つかどうか」ということだろう。
ここに「昇進期待度」という新たな基準を加えるのである。
期待の段階は,社長,役員,部長,その他,くらいで構わない。
そして,「即戦力」基準で同じ評価レベルの候補者がいれば,「昇進期待度」の高い人を採用する。
単純なようだが,実は外資系コンサルティングファームでもこの基準を使っているし,役員になることが期待できない人は採用されない。
「即戦力」基準だけで採用すると,やがて次の若い人と入れ替える対象になってしまう。しかし,将来社長や役員になることを期待して採用したのなら,人事だけでなく,現場の目も変わる。
⑵意思決定させるOJT
戦える役員を育てるとは,意思決定ができ,責任をとれる人材を育てるということだ。特に意思決定は,日々のなかで習慣化できる。
だから人事としては,OJTのあり方を改革する。具体的には,以下のステップでOJTを指示することだ。
①プロジェクトあるいはそれに類する単位で仕事を与える
② 1 つの作業は1 人にだけ与えるようにする(同じ作業を複数の人に与えない)
(※これは実は業務の標準化やリスク管理には反する。あくまでも役員を育てるための方法として考えてほしい)
③プロジェクトの結果を確認する
これはルーチン業務でも使える方法だ。例えば給与計算事務なら,勤怠集計から給与明細発行までの一連の作業をまとめて期日を定めればよい。そうして,個々の作業に対する責任をはっきりさせる。
そうすることで,想定外の事象があったとき,責任を持って決める意思が強まることになる。
もちろん,高度な非定型業務においてもこの方法は大きな効果を発揮する。
⑶「入学基準」での昇進
昇進判断を過去の評価結果に基づいて決定する企業が多い。最低滞留年数を定めている場合もある。これらはすべて「卒業基準」だ。
これに対して「入学基準」の昇進基準を定めておく。
「卒業基準」そのものを否定する必要はない。ただ,早期に役員を育てる場合には,卒業基準を満たしていなくても入学基準を満たしている人材を登用する必要がある。
現場から出てくる,「まだ若い」「現場経験が少ない」という声は,むしろ期待した人物を失敗させるために機能する。
だからこそ,人事は経営者に対して,入学基準で昇進を働きかけなければいけない。
■ 中途採用時の処遇に注意
ここまで示した3 つの方法は,中途採用者にも当てはめることができる。
ただ,幹部候補を中途採用する場合,注意しなければいけないことがある。
それは採用時の年収だ。
中途採用候補者が求める年収が,社内の給与テーブルに合わないということはどこの会社でも頻繁に発生する。
そこで稟議に手間取っていると,候補者は別の会社に行ってしまう。
このような事態が生まれる原因は,社内の調和が乱れる,という理由であることが多い。
ここで新しい役員の役割に立ち戻ってほしい。
これから求められる役員は調整型の長老ではない。
むしろ,社内の秩序を変える役割こそが,新たな役員に求められる。
だからこそ,報酬面での特例措置を恐れてはいけない。やがてその特例が社内の標準になるかもしれないのだから。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)
セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役
※当ブログ記事は、平康慶浩が月刊人事マネジメントで2013年9月~2014年2月にかけて連載していた「経営ブレインへの転換を図る5つの人事機能」から転載しています。