マネジャーの役割は波風を立てること
「弊社はプレイングマネジャーしかいないので改善したいと思っています」
そんな問合せを受けるときがあるのですが、そこで「では管理職教育をしましょう」とか「管理職に対する期待と責任を明確にする仕組みを導入しましょう」とかの答えはしません。
「なぜそうなっていると思いますか? それは本当にまずい状況ですか?」
と尋ね返すようにしています。
なぜなら、プレイングマネジャー組織からの脱却は、社内に大きな波風を引き起こす、大改革だからです。
そして、そもそもなぜプレイングマネジャー組織になってしまっているのかを理解しなければ改革を進めることすらできないからです。
ベストセラー商品を持っている会社を想像してみてください。
その会社では創業時に発売した商品AAAが爆発的に売れ、市場で確固たる立場を築き上げました。
その結果、毎年売上が一定に保たれています。
他社商品とも住みわけがされており、これ以上売上が増えることもありませんが、下がることもありません。
この会社に求められる基本戦略は、基本的にはAAAの品質を下げず、効率的に製造し販売することです。
最初のころは何度も、AAAの代わりになるような商品を考えては発売していましたが、いずれもうまくいきません。
ある程度うまくいっても、メイン商品であるAAAの売れ行きと比較され、どうしてもかすんでしまいます。
いつしか新商品、新規事業に対するモチベーションはなくなり、AAAのための組織として完成してゆきます。
人のライフサイクルも、それにあわせて構築されてゆきます。
新人はAAAを製造し販売するための、完成されたスキルの習熟に励みます。そして習熟したのちには、それらを後輩に伝授していく役割も担います。
マネジャーには、業務プロセスの管理と社内の人間関係をフォローする役割は期待されますが、それもある程度固まっているので特に気にすることもありません。
むしろ自分自身が築いてきた専門性を発揮しながら作業に没頭することを好むようになります。
そうして、プレイングマネジャーだけの組織として完成し、循環してゆくのです。
このような会社に、プレイングではない経営を主とするマネジャーが配置されるとどうなるでしょう。
プレイング状態の人から見れば、怠け者にしか見えないことすらあります。
メイン商品に対して手を動かさず、専門性も持っていないからです。
鳴り物入りで中途採用したとしても、期待外れの烙印を押されて、やがて去っていかざるを得なくなります。
プレイングマネジャー組織が専業マネジャーを求める理由は、ほぼ一つです。
それは新しいビジネスをつくりあげるため。
特に昨今示されている経営学の知見である「両利きの経営」を実現してゆくには、メイン商品側のプレイングマネジャーでは十分ではないのです。
新しいマネジャーに求められるのはビジネスの新陳代謝であり、時にメイン商品の否定すらしなければいけないこともあるでしょう。
つまり「波風を立てる仕事」がマネジャーに求められるようになります。
それだけの改革を進める理解度と本気度を確認して、そして経営変革としての人事改革を進めることが重要なのです。
平康慶浩(ひらやすよしひろ)
※当記事はセレクションアンドバリエーションのメルマガで送った内容を、2週間置いて、アレンジして記載したものです。
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