あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

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統計からわかる給与の変化(暫定:男性版)

私が最初に東洋経済新報社から出版した「うっかり一生年収300万円の会社に入ってしまった君へ」は、玄人受けのする良書だと評判でした。

この本をきっかけに、集英社とか日本経済新聞出版社とかプレジデント社とかからいろいろなお話をいただきました。

 

 

この本を出す直接的なきっかけはすでにベストセラーを出版していた友人の紹介だったんですが、出版の企画を編集者さんに認められた理由というのは「これまでなかった切り口」とともに「エビデンスを明確に示している」ということだったそうです。

そのおかげで、いわゆる自費出版などではなく、普通に印税をいただきながらの出版ができました。

思い返してみれば、当時は独立したてでそれなりに安定したお客さんもいて、仕事を拡大する気もあまりなかったので、結構時間があったんですね。

だからいろいろな資料を読みながら、独自の分析をして遊んでいました。

 

そこで見えてきたのが当時の「4社に1社が昇給ゼロ」とか「配当を重視する機関投資家の傾向」とか「標準生計費の構造」とか「共働き割合の増加」とか「業界別の人員数変化」とか「業界別の給与水準変化」とかでした。

だからそれをベースに、『ゲームのルールを知る』ための本を書いたわけです。

 

最近だと、NIKKEI STYLEの連載をしている中で、さまざまな分析をすることがあります。

ある程度の分析はしつくした感があるのですが、ふと国税庁の「民間給与実態統計調査」をさかのぼってみました。

すると、表計算ソフトのファイル形式でデータが手に入るのが平成11年(1999年)以降ということがわかり、ちょうど20年ほどになるなぁ、と気づきました。

だったらこのあたりの経年分析をしてみようかと思ったわけです。

 

ザクっとした分析に基づく記事は、2021年2月16日公開のNIKKEI STYLEに掲載しました。

分析を踏まえたキャリアアップの方向性についてのお話で、それについてはそちらの記事を見てみてください。

style.nikkei.com

(ちなみにこの記事はYahoo!ニュースで263件のコメントをいただきました。)

 

で、分析していると他にも色々見えてくるわけで、今回はそこから見えてきたポイントを3つご紹介してみます。

 

『1999年~2019年までの20年間で起きている3つの給与構造変化』

 

ポイント1.資本金10億円以下企業で年収平均が下がっている。

 資本金階層で見た場合ですが、以下のような感じ。

  2000万円以下 年収約70万円減少
  5000万円以下 年収約56万円減少
  1億円以下   年収約38万円減少
  10億円以下  年収約18万円減少

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参考として、統計上一番小さな資本金規模である2000万円以下のグラフを掲載してみます。グラフの縦軸はその統計年度ごとの人の割合です。

一番薄い青が平成11年、一番濃い青が令和元年です。

見ていただくとわかりますが、年収300万円以上のところで薄い青の方が上にあり、300万円以下のところで薄い青が下にあります。

このような変化が年収70万円の減少につながっています。

 

実はこの分析をしていて、なんとなくおかしいな、と思いました。

というのも、アベノミクスによって平均給与水準は毎年2%くらいずつ上がっているはず、と思っていたからです。厚生労働省統計による賃金構造基本統計調査では微増にもなっていますしね。

ただ、あと2つのポイントと照らし合わせながら考えると、一つの答えが見えてきた気がしました。

 

ポイント2.資本金10億円以上企業で年収は微増している。しかしその理由は中間層の減少と、下位層、上位層の増加。

 

具体的には年収300万円~800万円の人たちは6.4%減少し、年収300万円以下が2.3%増加。

そして年収800万円以上層は2.3%増加していますが、そのうち8割は年収1000万円以上層の増加によって実現しています。

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こちらのグラフでは、高い年収帯で濃い青が上にあり、低い年収帯で薄い青が上にありますね。平均年収があがっていっていることがわかります。

そして年収300万円以下の人たちは、このグラフでも増えていることがわかります。

だからポイントの3つ目は以下のようなものです。

 

ポイント3.資本金10億円以下企業でも下位層は増加している。しかし上位層は増加していない。その境界となる年収は奇しくも「300万円」である。

つまり300万円以下の年収の人が増えた分だけ、300万円以上の年収の人たちが減少しているのです。さらに資本金10億円以上の層で見られたような上位層人数の増加はほぼありません。

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もちろんこれらは平成11年と平成20年、令和元年の単純比較であり、その間の年を詳細にみているわけではありません。

ただ、これら3つの分析結果から考えた仮説は、進んでいる二極化傾向は一層強固になりつつあるのでは、というものです。具体的には、資本金10億円以上の年収800万円以上で働く層の人数が増えていて全体の平均年収もあがっている。

けれどもそれは年収300万円以下の層が増えていることの結果ではないか、というものです。

「うっかり一生年収300万円~」の本で危惧していた内容が、現実になりつつあるのでは、と感じたのです。

 

 

おりしも、ちょうどこの本を読んでいました。 

 また、アンチテーゼ的に読めるこちらの本も読みました。

 

重要なことは中小企業を中心にした生産性の向上であり、そのための人材移動と教育だと考えています。

ただ、そのためにはかなり大がかりな業界再編が必要であり、変革を導くリーダーがとても重要です。

 

そのあたりの前提として、上記の分析を女性に対して適用してみた場合にどうなるのか、ということを今度アップしてみます。

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)

 

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