あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

まじめな話と、雑感(よしなしごと)とがまじっているので、 カテゴリー別に読んでいただいた方が良いかもしれません。 検索エンジンから来られた方で、目当ての記事が見当たらない場合 左下の検索窓をご活用ください。

コミュニケーション力がなくても、ソーシャル力は高められる

 これからの時代を生きていくためには、スキルアップに加えて、つながりをつくろう、信用をつくろう、という見解があるのでそれはもっともだと思う。

 例えば山口揚平さんが書いている文章を読んでそう思う。

 

 でも、ちょっと待てよ、と思う部分もあるわけで、それはなんというか「やっぱりコミュニケーションが大事だよ」というメッセージに読めてしまって、僕のような本質的にコミュニケーションが苦手な人間は一瞬ひるんでしまう。

 山口さんもたしかコミュニケーションが苦手だった、ということを著書で書かれていたと思う。

 僕は山口さんにお会いしたことがないので、リアルな人間性はよくわからない。けれども今はコミュニケーション上手な人のように感じる。

 そういう僕も、コミュニケーションが苦手だ、と書いたけれど、僕とリアルに接した人でそう思う人はあまりいないだろう。

 コミュニケーションが苦手な状態から、そうは見えない状態にまで慣れるのにそりゃもういろいろと苦労をした。

 

 で、これからの世の中でうまく生きていくためには、そんな苦労をやっぱりみんなしなけりゃいけないのかな?と考えてしまう。

 実際にはそうじゃない。ひるむ必要はないのだ。

 

 

■ コミュニケーション能力にはおおざっぱに2種類ある

 

 コミュニケーション能力、といったとき、おおざっぱに2種類を定義できる。

 クローズドなコミュニケーション能力と、リモートなコミュニケーション能力だ。

 クローズドなものは対面が基本で、会話だけでなく身振り手振り、表情、声色とかが関係する。

 ファッションセンスや髪型だって大事だ。それらをひっくるめてクローズドコミュニケーション能力と言ってしまおう。

 一方、リモートなコミュニケーション能力は文章が基本になる。メールやSNS、ショートメッセージサービスでは、それぞれ独特の文章力が必要になる。このブログにしたってリモートなコミュニケーションのひとつだ。

 じゃあこれらのいずれか、あるいは両方をレベルアップすべきなのだろうか。

 

 実はそんなコミュニケーション能力を伸ばさなくても、つながりや信用はつくることができる。

 ヒントは6次のつながりクラスタにあるのだ。

 

 

■ 6次のつながり

 

 スモールワールド、という理論の背景にもなっている「6次のつながり」とは、知り合いの知り合いをたどっていけば、世界中の人とつながれる、と言う理論だ。6と言う数字が大事ではなく、100や200もいりませんよ、という例えにすぎない。

 たとえば僕たちが遠い誰かとつながろうとするのなら、「深く知らない人」と少しだけ知り合えばいい。そして「深く知らない人」の数を増やしていく。

 大事なポイントがひとつあって、「深く知らない人」同士が知り合いでない人を選ぶことだ。

 そして可能であれば、少しだけでも自分より、コミュニケーションが上手な人を選ぶ方がよい。

 知り合うことには労力がいる。コスト、と言ってもいいのだけれど、時間やお金や気苦労を費やすことになる。

 知り合ったあと、関係を維持することも大変なので、あまり増やしすぎると大変になる。

 ただ、そこそこビジネスマンを長く続けていると、3年や5年くらい間が開いてても、最初にがっちりと知り合っておけば「ひさしぶり!」と言えたりするのでその程度でもいい。

 こうして知り合いを増やせば、僕たちは「6次のつながり」のはじっこにくっつくことができる。

 

 

■ クラスタ

 

 一方で僕たちは近しい人たちとの間で信頼関係を築いていく。家族もそうだし、仕事で頻繁に会う人たち、友人たちなどだ。

 近しい人が一人しかいない人もいるだろうし、100人の近しい人を持つ場合もあるだろう。

 そこで大事なことは、近しい人と「深くつながる」ということだ

 クラスターを構成するために大事なことは、僕たちとつながっている人たちが、それぞれ同士でもつながっている状態ができている、ということだ

 深い関係、というのは、つながりあっている関係のことだ。

 このクラスターは僕たちを中心に複数存在していて、家族のクラスター、友人のクラスター、職場のクラスターなどにわかれる。

 そうして僕たちはクラスターに属することになる。

 

 

 

■ つながりや信用は自然増殖する

 

 僕たちが6次のつながりをキープし、クラスターを確かなものにしてさえいれば、僕たちは多くのつながりや信用をどんどん広げていける。

 別に無理をしてコミュニケーションを頻繁にとる必要はない

 実はこれは、関係資本(ソーシャルキャピタル)を増やすための、ネットワーク理論の応用だ。

 実際、僕のようにコミュニケーションが苦手な人間は、自然とこの仕組みを自分なりにつくっている。

 

 

■ 僕たちは関係資本を軽んじてしまっているのかもしれない

 

 社会的存在としての人間は、人的資本と関係資本をつみあげている。

 人的資本というのは知識やスキルや経験のことで、独学でも手に入るけれども、学校に行ったり、優秀な人たちの集団でもまれることでもっと効率的に手に入る。

 関係資本というのはまさに人とのつながりや信用のことだ。

 勉強をすれば知識が手に入るし、本を読めば新しいことを知る。そうして僕たちは人的資本には目を向けるのだけれど、関係資本は軽んじているかもしれない。

 

 今目の前にいる人を裏切っていないだろうか。

 大事な人のために全力をつくしているだろうか。

 

 関係資本というのは、僕たちが属しているクラスターの中での信頼によって築かれる。

 それは、6次のつながりの先にまで届いていく信頼だ。

 

 たとえコミュニケーションが苦手だとしても、目の前の大事な人のために力を尽くすことはできる。

 それが僕たちが自分の価値を高めていくための、最初の大事な一歩だ。

 

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)