あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

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「労基署の言うとおりにしていたら倒産する」という社長は正しいのか

残業代問題についての記事を読んで、ああ聞きなれた言葉だなぁ、と思った。

公益通報者保護申し立て 「たかの友梨」従業員 :日本経済新聞

 

特に中小企業のお手伝いをしているときに、良く聞く言葉だ。

 

「労基署の言うとおりにしていたら会社はつぶれてしまう」

 

そういう言葉が出てくる背景を理解できないこともない。

例えば最近では、社会保険料の高騰が問題になることがある。

社会保険料の推移は以下のようなグラフで示すことができる。

これは会社負担と本人負担を合わせた率を示したものだ。

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なるほど、この5年ほどの間におよそ2%程度ひきあがっている。

 

しかし、問題はこの2%の上昇率ではない。そもそもの社会保険料を払いたくないと考える経営者はとても多い。

給与の15%以上の負担をしなくてはならない、と考えるからだ。

だから試用期間なり契約社員としての期間なりをさまざまに駆使して、それっぽく社会保険料を払わなくて済むような理屈を整理する(ちなみに弊社ではそのようなお手伝いはしていない)。それがグレーなのかブラックなのかはあえてここでは記すまい。

 

また、残業代問題も同様だ。

残業した分を満額支払う、とした場合の支給額増加割合はなかなかのもので、どうにかしてカットしようとする取り組みを進める会社もある。

もちろん一律で会社側が非難されるべきではなく、一定割合で「残業代をかせぐために残業をする」人たちがいるのも事実だ。

しかし、業務の進め方を指示せず、あるいは朝令暮改(朝改)は正しいことだ、と強弁して手戻りを含めた思い付きでの残業を強制する会社も多い。

会社によってはそもそも、一日2時間~4時間の残業を前提として雇用する会社もある。残業代を支払っていればいいのだけれど、「正社員だから」という理由で残業代を一切支払おうとしない会社だって珍しくはない。

今回の「たかの友梨」従業員問題が事実だとすれば、それはそもそもそういうビジネスモデルなのだ。

振り返ってみれば、ワタミゼンショーの問題だってそうだ。

うちのビジネスとはそういうものだ、という経営者側の理解と、「いや、別にここじゃなくてもよかったし、単に就社しただけだし」という従業員側の理解との間で労働問題は発生する。

 

過去のビジネスモデルを維持しようとして、労基署などによる指導を軽んじる経営者は多い。どうにかして網の目を潜り抜けようとする。

たしかに、単に月給が欲しいからこのビジネスじゃなくてもよかった。このビジネスでプロになろうとなんて思っていない、と考える従業員側にも問題があるだろう。

 

けれども、やはり経営者側から正すべきだ。

経営者がルールを守らなければ、従業員がルールを守ろうと思うわけがない。

ビジネスモデルが成立しないというのであれば、ビジネスモデルそのものを変えなければいけない。

実際私がお手伝いしてきた居酒屋チェーンでは、残業代を一切支払っていなかったところから、満額支払う状態にまで変革した。それでも利益がちゃんと残るし、利益率が激減したというほどでもない。そもそも働き方やシフト管理の考え方から変革したからだ。

そうすることで従業員の採用が容易になった。そして出店ペースを引き上げることができるようになった。

 

正しいルールで競争したほうが、会社も成長しやすいのだ。 

 

 

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)

 

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