あしたの人事の話をしよう

セレクションアンドバリエーション株式会社 代表取締役 兼 グロービス経営大学院HRM担当准教授の平康慶浩(ひらやすよしひろ)のブログです。これからの人事の仕組みについて提言したり、人事の仕組みを作る立場から見た、仕組みの乗りこなし方を書いています。

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習熟と関係性のあり方が変化しつつある

ビジネスのイラスト「万能ビジネスマン」

仕事というものは慣れることで見に着くものだ、と考えられていた時代が長かったのではないでしょうか。

どんな仕事も繰り返していけば勘所がわかってきます。失敗と成功を繰り返し、人は技術を身に着けてゆくのです。

やがて習熟の速度がどんどん早まっていく時代が訪れます。

たとえば、1900年代初頭にフォードの工場で始まった大量生産の仕組みは、科学的管理手法によるKPI管理、つまり生産性の管理によって広まりました。

それまでもあった習熟することで品質やスピードがあがる仕事に対して、習熟の物差しを提供する仕組みでした。

物差しを得て、習熟速度は飛躍的に高まります。フォードの工場でKPI管理が行われるようになったことで、車を作る生産性はおよそ13倍に高まったというデータもあります。

 

そしてそれは、習熟の方向性が変化したタイミングでもありました。

「先人の背中を見る」ことから「新しい方法を学ぶ」ことへの変化でした。

 

一方、仕事にはもう一つのタイプがあります。

 

それは関係性によって成り立つ仕事です。

 

たとえば営業職は、習熟することによって関係性を獲得します。

〇〇さんだからこの仕事をお願いする、というような状態が生じることです。

経済学的に言えば乗り換えコストの問題だとかそんな話になるのですが、仕事によって構築された関係性そのものに価値が生まれ、そこから始まる仕事のあり方です。

 

そしてこの関係性ビジネスの世界にも、やはり大きな変化が生じています。

 

たとえば転職があたりまえになったことで、せっかく築いた関係性がゼロになることが増えました。

 

以前であれば、商社の営業マンがメーカーの購買担当と関係性を持っていれば、それは10年以上、あるいは生涯にわたって続く価値を生み出しました。仮にその人が異動したとしても社内の別部署にいるわけで、引継ぎなどにより、会社対会社の関係性は維持できたのです。

けれども担当者が転職してしまう時代になると、一度築いた関係性はとぎれてしまいます。

だから常に新たな関係性を構築することが求められるようになってきました。

その際の基準は、相手にとって特別な価値を提供できるかどうか、だったりします。
だから関係性のつくり方も「特定の人と深く付き合う」ことから「新しい出会いを作り続ける」ことに変化してきています。

 

「先人の背中を見る」「特定の人と深く付き合う」という仕事の進め方から、「新しい方法を学ぶ」「新しい出会いを作り続ける」という仕事の進め方への変化は、多くの人の生き方を変えようとしています。

 

ただ、そのことが最近、コミュニティのあり方にも影響している気がしています。

一番根源的なコミュニティである家族においても、「先人の背中を見る」「特定の人と深く付き合う」という形から、「新しい方法を学ぶ」「新しい出会いを作り続ける」という形に変わるとすれば。

 

それは思っているよりも大きすぎる変化なのかもしれません。

 

平康慶浩(ひらやすよしひろ)